能登半島地震では、特に石川県の奥能登地域で水道施設が大きなダメージを受けました。県によると、断水は発生直後で約11万戸。1カ月半がたった2月15日時点でも、輪島市や珠洲市の広範な地域で継続するなど、県全体で約3万戸に上っています。一部地域では4月以降まで続く見通しで、復旧の大きな障害となっています。ライフラインの中でなぜ断水が長期化しているのでしょうか。地震がどこで起きてもおかしくない日本ですが、ほかの地域でもこんなに長引くのでしょうか。
◇ ◇ ◇
石川県の馳浩知事は1月末の会見で断水について「主要浄水場が多数被災し、下流の送水管、配水池、配水管も相当のダメージを受けていた」と説明しました。日本水道協会によると、被災地には2月半ば時点で全国の自治体などや工事業者が計600人以上派遣され、地元自治体とともに懸命に応急復旧作業に取り組んでいます。応援の多くは、宿泊する周辺各地から奥能登に通う日々を続けています。馳知事は、道路も大きな被害を受けたため、往復に長時間がかかることも、作業の支障になったとも指摘しました。
輪島市の旧輪島地区と町野地区に応援に入っている東京都水道局の担当者は当初の状況について「金沢からだと、発生から約2週間は往復するのに約10時間かかりました。朝5時くらいに出発しましたが、現場での作業時間は限られていました。1月末でも片道3時間くらい要しました」と説明します。都は2月中旬には輪島市内に活動拠点を設置できました。道路状況も含め問題は少しずつ解消されつつありますが、多くの応援が作業時間をできるだけ確保するため、努力を続けているそうです。
都水道局によると、輪島市の水道網は、浄水場から高い場所にある配水池にポンプで上げ、高低差で市街地に流すイメージだそう。「1本道の樹枝状に水道の管路が延びており、1カ所が破損すると下流はすべて断水してしまいます」。作業は、上流から区間を区切り、途中のバルブまで水を通し、漏水の有無を確認。音聴棒で音を拾ったりして漏水箇所を特定。漏水があれば、道路を掘って修繕して、また水を流して漏水の解消を確認し、次の区間でも同じ作業を繰り返します。「約400メートルの区間で水を通したら漏水が4カ所見つかり、修理完了後に再び水を通したら新たに3カ所見つかったこともありました。尺取り虫のように、徐々に通水できる距離を伸ばしていくしかないです」。
浄水場も損傷し、機能が低下していたことも影響しています。「作った水は、被災者の方への応急給水が優先。漏水調査に使える量が限られていることも障害でした」。今は中心部の一定エリアで別のルートからも水を回せるようなネットワークをつくり、復旧は加速。被災者の生活や支援者の活動を支える拠点への通水を優先するなど、効果的な復旧にも取り組んでいるそうです。
配水管の漏水は、管と管のつなぎ目=継手(つぎて)部分が抜けているケースが多く見られるそうです。厚生労働省水道課の担当者によると、最新の耐震継手管は伸縮し、抜けないもの。一方で厚労省は基幹的水道管のうち、その地域で想定される最大の地震でも重大な影響を及ぼさない割合を耐震適合率とし、28年度末までに60%を目標にしていますが、21年度末時点で全国平均はまだ41・2%。石川県平均は36・8%(金沢市60・4%、輪島市52・6%、珠洲市36・2%)。60%を超えているのは神奈川(73・1%)、東京(66・0%)、千葉(60・3%)だけで、最も低い高知県は23・2%など、地域差が大きいのが実情です。
計2万7000キロ、地球の約3分の2周の水道管を持つ東京都の場合、震度7でも発生から17日間でほぼ復旧するよう対応しているそうです。水道局担当者は「想定される断水率は約26%。もともと地盤が軟らかい東部地域で断水率が高くなっています。1週間後には断水率が約17%に低下します。さらに30年度には、地震発生から12日間で解消するよう目標を定め整備を進めています」。22年度には避難所、救急医療機関、主要な駅、首都中枢機関などの重要施設への供給ルートの耐震継手化をおおむね終え、現在は断水率が高いと想定される地域で管路の耐震継手化を重点的に進めています。また、どこかが漏水しても別のルートから水を回せるネットワーク化も、一層進めているそうです。
厚労省の担当者は、水道網の“心臓部”ともいえる浄水場の耐震化率が全国平均39・2%と伸び悩んでいることにも触れ「浄水場の更新は、運転しながら別の場所につくってということが必要で時間もかかります。石川県もここに被害が出たので、復旧に時間がかかっていることもあります」と説明した。
馳知事は「耐震化が十分でなかった。水道は工事費なども直接、利用者の料金に跳ね返る。例えば、奥能登の料金はすでに金沢市の2倍くらい高い。こうしたことも耐震化の遅れにつながった」と分析しました。料金は地域によって異なり、例えば1カ月(2万リットル使用)5000円以上は67事業者、2000円未満が74事業者。給水人口が少ないほど料金が高くなる傾向があります。日本水道協会は料金の格差の理由について主に「水源の種類や取水条件の違い、地理的、歴史的要因、人口密度」などを挙げています。国は一定の条件のもと耐震化工事の費用の3分の1を補助しています。水道行政は4月から国土交通省に移管され、復旧にかかる補助率も引き上げられますが、馳知事は前倒しでの適用を求めました。
断水は過去の震災でも深刻な課題となってきました。厚労省によると、95年の阪神淡路大震災では最大約130万戸、最長約3カ月。11年の東日本大震災では約256・7万戸、約5カ月。16年の熊本地震では約44・6万戸、約3カ月半。地域によって備えの差はありますが、どこでも他人事ではありません。厚労省の担当者は「日頃から危機感を持ち、備えてください」と呼びかけています。【久保勇人】
【基幹管路の耐震化状況の例】(21年度末=厚生労働省)
△神奈川73・1%
△東京66%
△千葉60・3%
△愛知59・8%
△福島59%
△大阪49・9%
●全国平均41・2%
▼石川36・8%
▼佐賀27・8%
▼鳥取26・6%
▼秋田26・1%
▼岡山25・6%
▼高知23・2%
【1カ月の水道料金、各地の上水道事業者別の分布】(2万リットル使用した場合、20年度=厚生労働省)
▼全国平均=約3300円
▼5000円以上=67事業者
▼5000円未満~4000円=239事業者
▼4000円未満~3000円=439事業者
▼3000円未満~2000円=493事業者
▼2000円未満=74事業者
【水道アラカルト】
▼1人が1日に使う水量は? →約300リットル(家庭約230リットル=炊事40リットル、トイレ50リットル、お風呂80リットルなど、家庭外約70リットル)。
▼水道料金は? →全国平均は1リットル0・2円、1カ月2万リットル使用(1世帯の一般的使用量)で約3300円です。水道事業は、水道法で市町村による経営が原則とされています。複数の市町村が共同で事業に取り組む例も進んでいます。水道は使った人が使った分の経費を負担する仕組み(受益者負担)で、地域によって料金は異なります。給水人口が少ないほど、料金が高くなる傾向があります。使用量2万リットルの場合、最も高いのは北海道夕張市の6966円、最も安いのは兵庫県赤穂市の869円で、約8倍の差があります(下水道料金含まず)。
▼水道料金の使われ方は? →水をきれいにして届ける費用44%、施設づくり維持の費用56%。
▼全国の水道管の長さは? →約74万キロ(地球18・5周分、地球と月を往復できる距離に相当)。
▼安全安心 →世界で水道の水をそのまま飲める国は極めて限られ、日本はその1つです。
※厚生労働省HP、日本水道協会の水道料金表(23年4月現在)などから