ジャーナリストの伊藤詩織さん(36)が監督を務めたドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」(BBD)が12日、都内のT・ジョイPRINCE品川で日本国内での上映初日を迎え、公開記念舞台あいさつが行われた。冒頭で、伊藤さんは「日本で公開できて、とてもうれしい。日本へのラブレターと思って10年、作っていた。性暴力の被害から、いろいろあった」などと口にし、公開できて安堵(あんど)したのか、笑みを浮かべた。
「Black Box Diaries」は、伊藤さんが15年4月に元テレビ局員の男性から受けた性的暴行被害について、調査に乗り出す様子を自ら6年にわたって記録した作品。24年1月にサンダンス映画祭(米国)で行われた上映を皮切りに各国の映画祭で上映され、今年3月には米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門に、日本人監督として史上初めてノミネートされた。
一方で、元テレビ局員の男性から受けた性的暴行被害についての民事裁判で弁護を担当した、元弁護団の西廣陽子弁護士らから、ホテルの防犯カメラ映像など、許諾がないまま映像、音声が使用されているなどと問題点を繰り返し指摘されており、日本国内での上映が年末までずれ込んだ。伊藤さんは2月に発表した文書の中で「最新バージョンでは、個人が特定できないようにすべて対処します。今後の海外での上映についても、差し替えなどできる限り対応します」と問題点の修整、差し替えを約束した。
10月25日には、一部の証言映像を許諾を得ずに使用したことについて謝罪する文書を自身のホームページで公表。加害者らを目撃したタクシー運転手の証言映像を本人に無断で撮影し、本人に電話を試みたが半年以上連絡が取れなかったため、そのまま映画に使用したことを認め、謝罪した上で「新しいバージョンの使用をお許しいただいた」と説明していた。
公開前日11日には、西廣弁護士が「防犯カメラ映像を映画で使いたければ承諾をとって、と言ったのに守られませんでした」などと、さらに批判の声明を出した。これを受けて、伊藤さんは舞台あいさつ前に自身の公式サイトに声明と、諸般を説明した文書を発表。防犯カメラ映像については「オリジナル版のものから当初よりプライバシーと権利保護の観点、外観・内装・車両等をCGで差し替えるなどの編集・加工を施しています」と説明。「本来、防犯カメラは犯罪抑止と再発防止のための仕組みですが、実際には被害発生時にこそ役立つ現実があります。2度と繰り返さないため、ホテル等の関係者が即応・協力できる社会を切望します」と持論を展開した。その上で「ホテルとは裁判以外に防犯カメラ映像を使わないと約束したのは事実であり、防犯カメラ映像の取得にご協力いただいた西廣弁護士には申し訳なく思いますが、性暴力被害の実像を問題提起する本件映画において不可欠と判断し、決断しました。責任は私にあります」とした。
また、日本バージョンでは西廣弁護士が映らないように配慮した編集を行う判断をし、変更したと説明。海外では公益通報者にあたる捜査官Aの証言音声、映像などを使った箇所についても「オリジナル版のものから一貫して、顔など特定できる映像は使っておらず、音声は声質加工を施したうえで使用しています。日本版では音声をさらに加工して編集しています」とした。その上で「西廣弁護士は、本件映画の中では、警察官の証言が音声を変更することなく無断で使用されていると2024年10月の会見で述べました。しかし、本件映画は、当初より全ての警察官の声を加工・変更して使用しており、この点は、西廣弁護士に、2024年7月31日の協議において明確に伝えていますが、明らかに事実と相違する発言がその後会見などでなされたため、誤った情報が報道されてきました」と説明した。
伊藤監督は、舞台あいさつの壇上でも「尊敬する西廣弁護士からステイトメントがあり、一方的な情報が報じられたりしたが、正面からぶつかりたくないと避けてきた。防犯カメラ映像や、どういったタイムラインで映像を使うことになったか…それに対して、事実でないことに対して監督としてのステイトメントを書いた」と、声明を出した意図を説明。今回、日本で公開したバージョンについても「メディアの皆さんから、よく聞かれる、どういった部分が変わったかも、詳しく書きました。ホームページに載せました。迷惑、ご心配をおかけしました」と口にした。
「Black Box Diaries」製作にあたって「葛藤の嵐…葛藤しかなかった」と吐露。17年に著書「Black Box」を出版した当初は「ジャーナリストととして見ていたからこそ、自分のこととして起きたことからトラウマから避けられていた」と振り返った。その後「内面、向き合いたくないものと向き合って、当事者が作ったものを見たいと思った。自分のストーリーを撮るのは、すごい苦しい。450時間の映像と向き合うと、トラウマ、向き合いたくないことに向き合わされた」と振り返った。
その上で「世界では、いろいろなことが起きる。例えばガザ…ジャーナリストは、なかなか行けないでしょうね。新しいストーリーテリングのやり方として、それがジャーナリストとか? というのは違う議論だと思うけれど、自分で語ることの尊さを届けたいと感じています」と続けた。「自分のストーリーを伝えるのは、どうなの? という声は日本ではあるが、アカデミー賞ノミネート中、4作には監督が出ている。自分のストーリーを組み立てて、伝えられたのは大きかった」と「Black Box Diaries」の意義を強調。「大前提としてジャーナリストとしては作っていない。一線を越えて私自身がストーリーテリングしている」と作品の趣旨を定義付けた。

