来年2月末で定年を迎える橋田満調教師(69)の月イチ連載コラム「競馬は推理 だから面白い」の第4回は、2003、2004年のエリザベス女王杯を連覇した良血馬アドマイヤグルーヴについて語る。激しい気性と向き合った現役時代や、ダービー馬ドゥラメンテを出した繁殖牝馬としての功績、その優秀な血脈をたどる。

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まもなくセレクトセールが行われますね。アドマイヤグルーヴは2000年のセレクトで、当時の牝馬史上最高価格(2億3000万円=税抜き)で近藤利一オーナーが競り落としました。あの時は皆さん、白熱していましたね。もちろんセールの目玉でしたから、それまでに何度も直接チェックしていました。サンデーサイレンスの感じがして、欠点がなくて、それはいい馬でしたね。

 

 母エアグルーヴ、祖母ダイナカールとオークスを勝っている血統でしたから、当初から目標はオークスにありました。3代でオークス制覇なんてそうできることではありませんからね。2000メートルの若葉Sなどを使ったローテーションもそのためなんです。ただ、気性がめちゃくちゃに激しかった…。感受性が高すぎるゆえにすごく敏感で、すぐ興奮状態に。私が扱った中で、一番過敏な馬でした。

びっくりしたのは、Eコース(栗東トレセンの大外コース)の外の馬道を歩いて帰ろうとしている時に、内の馬場での追い切りに驚いて大暴れしたことがありました。その時、一瞬で目が真っ赤になったんです。一気に血圧が上がるのでしょうね。あんな一瞬で目の色が変わる馬は見たことがなかったです。獣医師の治療もほとんどできなかったくらいです。気に入らないことは、受け入れない性格でした。担当の矢部(助手)と、調教に乗った込山(助手)が辛抱強かったですね。矢部はまるでグルーヴに仕えるように世話をしていて、はたから見ていて大丈夫かな? と思うほどでした(笑い)。

目標としていたオークスは興奮状態がひどく、馬が平常心でいられなかったですね。それにスタートがスタンド前ですから、地響きのような歓声でパニックになっていました。厩舎では落ち着いているんですが、どうしても競馬場に行くとだめでした。それでも、少しずつ気性面で進歩を見せた秋のエリザベス女王杯で、やっとスティルインラブをかわしてくれました。

古馬になってからは、牡馬相手になると「馬が萎縮してしまう」と武くん(武豊騎手)は言っていました。振り返れば、気性の内面的な問題でうまくいかなかったレースもあります。それでも、結果としてエリザベス女王杯を連覇してG1を2勝。彼女の良さを出すことができたのは良かったと思っています。本当に、素晴らしい切れ味を出せる馬でした。

グルーヴの血脈は新しいものでなく、日本で長いものなんです。ボトムライン(直牝系)の4代母パロクサイドは社台ファームの創業者・吉田善哉さんの時に輸入した馬ですからね。それを社台グループが脈々と受け継ぎ、日本で作り上げてきたわけです。グルーヴの牝系をもつ馬を調べてみて驚きましたよ。全頭の生産者がノーザンファームになっているんです。ノーザンがこの血を、門外不出にしているくらい大切にしているんですね。

繁殖牝馬としては、最後の産駒ドゥラメンテが今年一番強いタイトルホルダーや牝馬2冠のスターズオンアースを出しています。血を残していくことが私たちの仕事。良質で〝この血が入っていることが大切〟という形で残っていくことは、競馬社会ですごく名誉なことですね。ただ、繁殖入り後も最初の方は妊娠鑑定ができないくらいでした。つくづく、グルーヴは〝私が女王様よっ〟と言わんばかりの馬でした。(JRA調教師)

◆アドマイヤグルーヴ 2000年4月30日生まれ。ノーザンファーム生産。父サンデーサイレンス、母エアグルーヴ(トニービン)。通算成績21戦8勝。G1・2勝。2003年牝馬3冠は桜花賞3着、オークス7着、秋華賞2着で、すべてスティルインラブに敗れた。