ダービー優勝の雄たけびの裏には-。学習院大在学中に「日本中世史」を学んだルーキー下村琴葉(ことは)記者が、歴代スターホースの逸話を探る連載「名馬秘話ヒストリア」の第5話はジャングルポケット。クラシック戦線など6戦の鞍上を務めた角田晃一調教師(51)を取材した。今回は01年日本ダービーの名場面を振り返る。(毎週金曜掲載)

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ダービーの栄冠をつかんだ直後のウイニングラン。角田騎手がスタンドに左手を掲げると、ジャングルポケットも頭を上げた。より大きくなる歓声。雄たけびをあげるかのように何度も頭を上げるジャングルポケットに、さらに盛り上がる競馬場。01年日本ダービーの印象的なシーンだ。

「あれはね、1頭で帰ってきたから」と角田師は話す。敗れた他の馬は、内のダートコースから地下道を通って戻っていくが、勝ち馬はウイニングランのため1頭で芝コースをスタンド方向へ戻る。

「みんなと帰りたくてあんな感じに。(ウイニングランも)初めての経験で、歓声もすごかったし、テンションも上がっていた」

普段から子どもっぽい性格で、ちょっとしたことで頭を上げるなどわがままな部分があったという。内ラチにへばりつく馬と、スタンド方向へ誘導しなければならない鞍上。小さな“攻防戦”が名場面を生み出した。

ジャングルポケットのダービー制覇には、もう1つの意味がある。95年に3冠確実と評価されながら、皐月賞前に屈腱炎のため引退したフジキセキと厩舎、騎手、馬主(斎藤四方司氏)、担当厩務員が全て同じだった。「エリートみたいな馬。能力が抜けていた」(角田師)というフジキセキが成しえなかったダービー制覇を、ジャングルポケットが代わりにかなえてみせた。

ダービー後も3歳でジャパンCを制するなど【5 3 2 3】の成績を残して引退。種牡馬としては、菊花賞馬オウケンブルースリ、オークス馬トールポピーなどを送り出し、現役でもサンレイポケットなどが活躍する。ときおり見られる産駒のおちゃめな性格は、どうやら父譲りなようで…。

◆ジャングルポケット 1998年5月7日生まれ、北海道早来町ノーザンファーム生産。父トニービン、母ダンスチャーマー(母の父ヌレイエフ)。栗東・渡辺栄厩舎所属。通算成績13戦5勝。重賞は00年札幌3歳S、01年共同通信杯(以上G3)、ダービー、ジャパンC(以上G1)の4勝。獲得賞金は7億425万8000円。

◆下村琴葉(しもむら・ことは)2000年(平12)、東京都生まれ。学習院大卒。学生時代は日本中世史ゼミに所属し『吾妻鏡』を講読。趣味は野球観戦。“ウマ娘”がきっかけで競馬に興味を持った。今年4月に日刊スポーツ入社、5月にレース部配属。