真夏の電撃戦で“初”が並んだ。7番人気ビリーバー(牝7、石毛)が重賞初制覇を飾った。

馬だけではない。デビュー12年目の杉原誠人騎手(29)、開業28年目の石毛善彦師(67)にとっても念願の初タイトル。外ラチ沿いの中団後方から鮮やかな末脚で突き抜けた。勝ち時計は54秒4。次走はキーンランドC(G3、芝1200メートル、8月28日=札幌)などを視野に入れる。

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高らかに右手が挙がる。杉原騎手とビリーバーがスタンドの拍手を一身に浴びた。かげろう立つ越後路を先頭で駆け抜けると、少し強めに相棒の首元をたたいて人馬は喜びを分かち合った。コンビ30戦目にして、待ちこがれた瞬間だ。杉原騎手は「抽選を通ったのも、この枠を引けたのも、流れが向いているんじゃないかと信じて乗りました」と吹きだす汗をぬぐった。

信じて、そのときを待った。内外に分かれた隊列にも意識はぶれなかった。16番枠。正攻法の外ラチ沿いで脚をためた。「理想通りのポジションが楽に取れた。前が開くのを祈るだけでした」。中団後方でも、手綱は引っ張りきりだ。大外シンシティから1頭分内にいたレジェーロとの間が開くやいなや、紅白の勝負服が激しく揺れた。

師匠の藤沢和雄元師の定年引退により、3月からフリーとなった。「心機一転、何とか自分なりにしていこうとしていく中で勝てたのは大きい」。デビュー12年目の22年は勝負の1年と決めていた。17年の結婚を機に、新たな縁をつなぐために訪れたのがオーナーブリーダーのミルファーム。いつも背中を押してくれる人たちに恩返しができた。

7歳牝馬のアイビスSD制覇は初めて。「いつも一生懸命走る馬で、本当に頭が下がる思いです。残り何戦するかわからないけど、全力で重賞勝ち馬として頑張ってもらいたいです」。次はサマースプリントシリーズ転戦も視野に入る。信じる者は救われる。ひたむきに走り続けた人馬に、勝利の女神が振り向いた。【松田直樹】

◆ビリーバー ▽父 モンテロッソ▽母 デイドリーマー(ネオユニヴァース)▽牝7▽馬主 ミルファーム▽調教師 石毛善彦(美浦)▽生産者 (有)ミルファーム(北海道浦河町)▽戦績 45戦5勝▽総収得賞金 1億6186万7000円▽馬名の意味 信じる者。母名より連想