匠(たくみ)の手綱さばきで超ロングシュートを決める。

日曜新潟メインの関屋記念(G3、芝1600メートル、14日)で現役最年長の柴田善臣騎手(56)が88年ヒシノリフオー以来、34年ぶりの同レース勝利をピースワンパラディ(牡6、大竹)と目指す。2週続けて追い切りに騎乗し、体調はチェック済み。椎間板ヘルニアの手術後、初の重賞制覇がかかる。

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じんわりと昭和の記憶がよみがえる。34年前の88年8月7日、22歳だった柴田善騎手は関屋記念でヒシノリフオーとあれよあれよの逃げ切りを決めた。最内枠で先手を主張し、並み居る先輩騎手を従えて1位入線をした。当時は中山競馬場のスタンド改修による開催日割の変更があり、福島芝1200メートルでの開催。セピア色とまではいかなくとも、懐かしい思い出だ。

柴田善騎手 ずいぶん前の話だな。前の日に雨が降ってさ、(増本)先生が『もうだめだ』って言って帰っちゃったんだよ。レースの時はいなかったもん。(2着馬ダイワダグラスの)吉沢(宗一)さんに、(3着馬プリンシプル)仁平(健二)さん。もう、みんな知らないでしょ。そんな時代から乗ってるのか。化石だな、俺も。

平成をまたぎ、7月30日で56歳になった。あの時2勝だったJRA重賞は100勝が見える96勝を数える。頸椎(けいつい)椎間板ヘルニアの手術を経て、5月22日に復帰後、2度目の重賞騎乗がピースワンパラディ。勝てばグレード制導入後、同一重賞最長間隔V、新潟での重賞10勝目で単独トップに躍り出る。依頼が舞い込むのは腕に衰えがないからこそだ。

柴田善騎手 まだ違和感はあるけど、馬に乗れば大丈夫。若い頃は競馬に乗るのが面白かったし、体のことを考えていなかった。そのつけが回ってきている感じはあるけど、周りの人間に助けられているよ。家族なり、医者なりに。ファンのみんなには迷惑をかけるけど、もう少し目をつぶってもらいたいな。

1週前、最終追い切りに騎乗し、1年7カ月ぶりのパートナーの出来を確かめた。「みんなが苦労したかいがある。今週は最後の1ハロンは体が縮んで、前に出た。自分で重心を保てて走れていたよ。乗れるなら、チャンスはある。乗れなきゃゼロだから」。笑顔には深いしわが刻まれる。現役最年長騎手、柴田善臣。週末はベテランの腕が鳴る。【松田直樹】

◆同一重賞Vの間隔 84年のグレード制導入後、最長記録は武豊騎手の29年。阪急杯を89年ホリノライデンで優勝した後に18年ダイアナヘイローで勝利した。その他の主な同一重賞ブランクVは横山典弘騎手の27年。東海Sの90年ナリタハヤブサ→17年グレンツェント。柴田善騎手の自己最長記録は21年。14年安田記念をジャスタウェイで制し、93年ヤマニンゼファー以来、21年ぶりに勝利した。