来年2月末に定年を迎える橋田満調教師(70)の連載コラム「競馬は推理 だから面白い」第8回は、競馬ファンについてつづった。

サイレンススズカを手がける中で再認識したファンの気持ちや「ウマ娘」をはじめとする多様な楽しみ方など、競馬文化への思いをたっぷり述べた。

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海外と比べても、日本の競馬にはたくさんのファンが参加してくださっています。馬券を買って楽しんでいただくことで競馬が発展する支えになっています。

私が携わった中で最もファンが多かった馬は、やはりサイレンススズカでしょう。直接お話しする機会はなくても、本当に多くのお手紙をいただきました。特に、あのような最期になってしまった後は、われわれ関係者だけでなく、応援してくださった方々も意気消沈しているのが伝わってきました。サイレンススズカを生きる支えにされていた方がいかに多かったかをあらためて思い知りました。

こうしたこともあって、ファンのみなさんにとって競走馬がとても大きな存在であることを再認識しました。もちろん、競走馬の所有者はオーナーなので、その意向は当然、競走生活に反映されるべきです。その中で、私たちがファンのみなさんにお返しできるのは、誠実かつ丁寧に物事を進め、より満足や充実感を味わっていただけるようにすることです。それによって、競馬界全体がうまく機能していると思います。

人気の「ウマ娘」では、サイレンススズカもイメージをうまく表現してもらって、そのキャラクターに対するファンも多くいらっしゃるようです。現役時代に生まれていなかった若い世代にとっては、ゲームを通じて知った方も多かったでしょう。競馬に興味を持つきっかけになり、馬券以外の面白さを深めてくれていると思います。

同じゲームの「ダービースタリオン」では、自分で競走馬を配合することができ、血統を勉強された方も多かったと聞きます。競馬には400年ぐらいの歴史があり、血統もすべて記録されています。知れば知るほど奥が深く、過去をたどれば底なし沼のようです。

以前に私は米国のクレイボーンファームを訪れ、ナスルーラ、ボールドルーラー、セクレタリアトの親子3頭の馬房を見学しました。並んだネームプレート3枚を見た時は感激しました。ナスルーラにいたっては私が生まれる前(42~43年)に走った馬。歴史のすごさを感じました。

73年の米3冠馬セクレタリアトはベルモントSを31馬身差で勝ちましたが、その再来とも呼ばれたのが、先週のBCクラシックを8馬身1/4差で勝ったフライトラインです。1400メートルのG1マリブSをスピードの違いで勝ち、同じような競馬を2000メートルでもやってのけました。私たちがサイレンススズカと目指してきた走りを実現したのです。

少し話はそれますが、競馬には多様な楽しみ方があります。たとえば、ロイヤルアスコットは別格として、サラトガ(米国)、ドーヴィル(フランス)、グッドウッド(英国)など特に夏の開催では、お客さんが着飾って競馬場を訪れます。日本でも、そういう試みがあってもいいと思いませんか?

馬券、ゲーム、血統、歴史、ファッション…。これからも、みなさんがそれぞれの形で競馬を楽しんでもらえたらと思います。(JRA調教師)