亡きオーナーに捧ぐ。今年から中京へと舞台を移し、名称もJCダートからチャンピオンズCとなった一戦は、過去2年連続3着だったホッコータルマエ(牡5、西浦)が2番手から抜け出し、悲願の中央G1初制覇を決めた。幸英明騎手(38)にとっても08年高松宮記念以来、6年ぶりのビッグタイトル。この後は29日大井の東京大賞典(統一G1、ダート2000メートル)、来年1月28日川崎記念(統一G1、ダート2100メートル)に向かい、ドバイワールドCで頂点を目指す。

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積年の思いをこめ、右ステッキを何度もふるい幸がホッコータルマエを鼓舞する。昨年は1頭になって気を抜いただけに「ずっと横にいてくれ!」とローマンレジェンドに願いつつ、またステッキを入れる。なんと直線の長いことか。顔を紅潮させ、一心不乱に追う。普段は冷静な幸がステッキの使用で過怠金を受けてしまうほど、我を忘れ必死に愛馬を鼓舞し続けた。直線410・7メートル。その先に待ちに待ったゴールがあった。

検量室に戻ると、感極まった顔、顔、顔。がっちりと握手し、喜びを分かち合った。「ちょっとウルウルきました。本当、悲願でしたから。うれしいです」。いつも涼やかな幸ですら、思わず瞳を涙でにじませた。

雪辱の思いは誰より強かった。昨年はJCダートウイークの11月29日に、矢部幸一オーナーが75歳で死去した。亡きオーナーに最高の報告を、と挑んだが結果は3着。リベンジの気持ちで臨んだ今年のフェブラリーSでは、最低人気のコパノリッキーをかわせず、2着。周りの騎手には悟られないようにふるまっていたが、心中ではぼうぜんとしていた。「その日の夜はやけ酒でした」。いつもよりグラスは進むが、ちっとも楽しくない。頭の中を駆けめぐるのはレースのことばかり。「どうにか出来なかったのかって、そっちの方ばかり考えてしまう」。悔しさを晴らすには、このレースしかなかった。

いつも手綱を任せてくれる西浦師への恩返しも心で決めていた。「『自分のところで幸に絶対G1を勝たせてやるんだ』という話を聞いていました」。近年は大舞台での騎手乗り替わりが普通になってきたが、鞍上を大事にしてくれたのは、元ジョッキーの西浦師だからこそ。「デビューして、開業からよく乗せてくれていた。先生は主戦をすごく大事にされる」。その気持ちにこたえるには、優勝という形しかなかった。

ようやく手にしたJRA・G1。しかしまだ5歳。次なる目標は世界一だ。今春遠征したドバイワールドCでは、まさかの最下位に敗れ、直後の胃腸炎でリズムを崩した。「ドバイは来年ダートで行われるし、違う競馬が出来ると思う」。亡きオーナーのために陣営が一丸となって、次は世界一をとりにいく。【平本果那】

◆ホッコータルマエ▽父 キングカメハメハ▽母 マダムチェロキー(チェロキーラン)▽牡5▽馬主 矢部道晃▽調教師 西浦勝一(栗東)▽生産者 市川ファーム(北海道浦河町)▽戦績 27戦13勝(地方10戦7勝、海外1戦0勝)▽総収得賞金 7億3545万6000円(地方3億9380万円、海外0円)▽主な勝ち鞍 12年レパードS(G3)、13年かしわ記念、帝王賞、JBCクラシック、東京大賞典(以上統一G1)、アンタレスS(G3)、佐賀記念、名古屋大賞典(以上統一G3)、14年川崎記念(統一G1)▽馬名の由来 冠名+樽前山より

(2014年12月8日付 日刊スポーツ紙面より)※表記は当時