先週のサウジアラビア国際競走で現役最後の騎乗を終えて騎手を引退し、1日に調教師に転身した福永祐一師(46)が4日、阪神11Rチューリップ賞で誘導馬に騎乗して出走馬を先導、最終レース終了後には引退式を開催。節目を迎えた名手について、騎手時代に取材した日刊スポーツの担当記者が「思い出」を記した。

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「32歳(09年)で騎手をやめようかとも思った」。驚きの告白を聞いたのは10年ほど前のことだった。

福永騎手は分け隔てなくざっくばらんに思いを口にする。話術も巧みで、記者というより1人の競馬ファンとして聞き入ってしまう場面も多かった。そんな中でも、冒頭の言葉は衝撃的で、今でも覚えている。

05年に自身初の年間100勝を達成した翌年に師匠の北橋師が引退した。以後数年は勝ち星が伸び悩み、80~90勝台と頭打ちに。脳裏にちらついた「引退」の2文字を打ち消してくれたのは、周囲の支えだった。親交の深い歌舞伎俳優市川海老蔵からは「おまえは晩成」と励まされたという。今から思えば、未来を予見した助言だったといえる。

調教師試験に合格した翌日、運良く2人で話す機会があった。「支えてくれた人たちのおかげ。惜しまれる中で次の選択ができるのは幸せ。ありがたいと思う」。まだピークにある中でステッキを置く“晩成”の46歳。調教師としては早くから活躍してくれると信じている。

【中央競馬担当=太田尚樹】