1日付で調教師に転身した福永祐一師(46)が4日、阪神競馬場で「騎手引退式」を行った。師匠の北橋修二元師を始め、多くの関係者、ジョッキー、ファンが見守る中で、27年間の騎手人生に区切りをつけた。両親も式に参加し、父洋一さん(74)には自ら花束を手渡した。今後は、25日のドバイ国際競走に出走するシャフリヤールやヴァンドギャルドなどの調教に現地で騎乗。国内外の生産地、育成牧場を訪ねて研さんを積み、調教師としての歩みを始める。

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最高の引退式だった。1万1500人ものファンで埋め尽くされたパドック。福永騎手は両親、師匠の北橋元師、騎手仲間を背に、あふれる涙をこらえきれなかった。

「27年こんな親不孝はないなと思いながら続けてきたけど、こうやって引退することができ、ようやく長きにわたった親不孝を終えることができた。ホッとしているし、申し訳ない気持ちでもいる。こんなに長くジョッキーをやると思ってなかったから。自分には過ぎた騎手人生だった」

濃密な27年間だった。「天才・福永洋一」の息子として生まれ、武豊騎手を見て「競馬の世界で1番になる」と志した。「母親にはつらい思いをさせ続けてきた。北橋先生には出来が悪くて迷惑をかけてしまった」。心は何度も折れかけた。「なれるなら俺も天才がいい」と漏らしたこともある。それでも続けてこられたのは、応援してくれる多くの人のおかげだった。

「努力できたのはたくさんの方が支えてくれたから。その方々の思いに報いるためには、自分は頑張ることしかできなかった。一生懸命、真面目に勤め上げることしかできなかった」

引退式の最後に流れたのは、大好きなMr.Childrenの「終わりなき旅」。コントレイルの3冠達成前夜、車の中でも聞いた思い出の曲とともに、ファンへ手を振った。「次の舞台でも頑張りたい」。そう笑顔で話した目は、調教師としての“終わりなき旅”へ向いていた。【藤本真育】