常識も年齢も超えてゆく。レジェンド武豊騎手(54)が「第90回日本ダービー」(G1、芝2400メートル、28日=東京)で前人未到の7勝目を狙う。
昨年はドウデュースで最年長Vを達成。史上初2度目の連覇を狙う今年は騎乗馬なしの危機から一転して、皐月賞3着ファントムシーフ(牡、西村)の手綱を託された。54年ゴールデンウエーブを最後に半世紀以上も続く「テン乗り(初コンビ)では勝てない」というジンクスも笑い飛ばした。
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端正な歯並びを見せ、目尻にしわを寄せた。レジェンドは“常識”も笑い飛ばす。テン乗りでは勝てない-。68年も破られぬジンクスを聞かされても、武豊騎手は余裕で切り返した。
「去年だって、ダービーを6勝した人はいなかったんだからね」
さらには、自ら反論材料となるデータまで持ち出す。「去年も皐月賞で1番人気3着の馬(ドウデュース)で勝った。スペシャルウィーク(98年)もそうだったし、タニノギムレット(02年)も。素人みたいなことを言うようやけど…」と笑った。そんなポジティブ思考こそ、不可能を可能にしてきた男の秘訣(ひけつ)なのかもしれない。
数週間前までは13年ぶりに不参戦の危機に陥っていた。キャリア37年目で33戦6勝。勝利数だけでなく騎乗数も史上最多で、現行のJRA平地G124鞍の中でも最も多い。乗れなかったのはデビュー年と騎乗馬が直前で故障した92年、そして自身が負傷していた10年の3度だけ。「毎年出たい。今年はハラハラした」と気をもんでいた。
ピンチから一転してチャンスへ。大一番の約3週間前に皐月賞3着ファントムシーフの騎乗依頼を受けた。さっそく10日の2週前追い切りにまたがると、思わず笑顔に。年下の厩舎スタッフへ「本当にありがたい」と感謝を告げたという。
「こんなにいい馬が回ってきてよかった。道中でむきにならなさそうだし、ズブくもなさそう。割といろんなレースができそうなイメージ。去年(のドウデュース)も『中山2000メートルより東京2400メートルで断然(力を)発揮できる』と思っていたけど、そういう意味ではファントムシーフも同じ。見た感じで、そう思う。うまくかみ合えば勝つチャンスがある。強い馬はいるけど、競馬なので何があるか分からない」
ジンクス打破へ腕が鳴る。テン乗りに備え、明日24日は2、1週前追いに続き3週連続で調教に乗る。起死回生の7勝目&2度目の連覇へ。「何回勝っても勝ちたいですよ。連覇もかかってますし」。ひたすら前を向く54歳が、今年も歴史を塗り替える。【太田尚樹】
◆テン乗りV 過去89回のダービーの歴史で34年フレーモア、36年トクマサ、54年ゴールデンウエーブの3例しかない。近年では19年に1番人気のサートゥルナーリアが4着に敗れている。達成すれば69年ぶりの快挙となる。乗り替わりでの勝利も至難で、グレード制導入の84年以降の39回で85年シリウスシンボリと21年シャフリヤールの2例しかない。
◆2度目の連覇へ 日本ダービーを初めて連覇した騎手は、98年スペシャルウィーク、99年アドマイヤベガの武豊騎手。その後に四位騎手が07年ウオッカ、08年ディープスカイで、福永騎手が20年コントレイル、21年シャフリヤールで達成したが、2人はすでに調教師になっており、2度目の連覇を果たした騎手はいない。武豊騎手が今回も前人未到の偉業に挑む。ちなみに、武豊騎手のダービー通算6勝もダントツ。2位は3勝の福永元騎手で、2勝は13人。
■ファントムシーフは厩舎で静養
関西馬の代表格ファントムシーフは22日、調教のない全休日とあって厩舎で静養した。皐月賞は向正面での落鉄もあり3着に敗れたが、17日の1週前追いではCウッド6ハロン81秒0-11秒0の好時計で、オープンの古馬2頭を突き放した。梛木助手は「すごい脚力でしたね。力通りに走れたらチャンスはあると思う。乗りやすい子でテン乗りは気にならない。ましてや豊さんなので」と名手を信じる。