史上8頭目の無敗の皐月賞&ダービー制覇を狙うソールオリエンス(牡、手塚)に迫る連載「ライジングサン ソール無敗2冠」の第3回は、同馬を管理する手塚貴久調教師(58)をピックアップする。調教師として史上5人目のクラシック完全制覇がかかり、大きなチャンスを迎えた。

日本調教師会会長の要職を務め、トレセンでは記者に囲まれると、その週の出走馬の状態を雄弁に語る。取材に行けば、助手、厩務員がみな笑顔であふれる厩舎のリーダー。そんな手塚師が慶大商学部の学生時代、ほれて追いかけた馬がいた。84年に無敗で3冠馬に輝いた最強馬「皇帝シンボリルドルフ」だ。「三宿(東京都世田谷区)にある自衛隊中央病院の近くで1人暮らしをしていました。原付に乗って、府中(東京競馬場)まで行って、ダービーとジャパンCを見ましたよ」。

栃木県出身。父の佳彦氏は足利競馬場で調教師をしていた。日本新記録の29連勝を樹立したドージマファイターを管理。北関東ダービーを第2回(74年)のサンダーニセイなど3度(他に76年マツノコウゲン、95年エヌケーオージ)制している名トレーナーだった。父と同じ道に進むつもりはなかったが、大学時代に競馬ファンとなり、卒業前に父と北海道を旅行した時、この世界で生きていくことを決めた。「競馬というスポーツの魅力を感じてもらえるような名馬を育てたい」。自らバイクを走らせ、熱気に触れた大レース、ダービーへの思いは強い。

衝撃の末脚で制した皐月賞の数日後、凱旋門賞へ登録する意思があるのかを確認すると、即答だった。「決めるのはオーナーだけど、僕はするつもりはありません。秋は凱旋門賞を勝つことよりもソールオリエンスを3冠馬にすることが目標。オーナーも気持ちは一緒だと思います」。火曜朝の美浦トレセン。降りしきる雨の中で、いつものように馬に寄り添って歩き、状態を確認する。調教師としては史上5人目のクラシック完全制覇がかかる一戦。「チャンスはある」。39年前に見たルドルフのように無敗のまま、ソールオリエンスの戴冠を信じている。【木南友輔】

◆クラシック完全制覇の調教師 過去に尾形藤吉、田中和一郎、藤本冨良、武田文吾の4人が達成。手塚師は皐月賞を今年のソールオリエンス、菊花賞を18年フィエールマン、桜花賞を13年アユサン、オークスを21年ユーバーレーベンで制覇。ダービーを勝てば84年のグレード制導入後、初の快挙になる。