史上初の牝馬3冠馬メジロラモーヌなどを管理したJRAの奥平真治(しんじ)元調教師が、病気療養中のところ10日に亡くなった。86歳だった。12日、日本調教師会が発表した。

 

<悼む>

奥平真治さんによく言われたのが、「そうかい?」というコメント。調教師の現役時代は、決して取材しやすい方ではなかった。ある馬の追い切り直後、管理していた奥平さんにコメントを聞きに行った。「いい動きでしたね」と言うと「そうかい?」。記事にはしづらいが、どこか愛嬌(あいきょう)のあるアクセントでそう言われた。

86年に牝馬で初の3冠を獲得したメジロラモーヌの昔話を聞きに行った時もそうだ。どういう質問をしたか忘れてしまったが、やっぱり最後に「そうかい?」と言われてしまい、記事には出来なかったのを覚えている。

よく話を聞けるようになったのは、奥平さんが調教師を定年になってから。中央競馬とボートレースの両方を担当することなり、月に1度ほど多摩川に通っていた。記者席に行く途中に来賓室があり、そこを通ると奥平さんがいた。「先生、ご無沙汰してます。何しているんですか、ここで」と声をかけた。「多摩川がやってる時はいつもここに来て遊んでるんだよ。土日以外はいつもここかな」。「土日は何しているんですか」。「競馬場に行って馬券を買っているよ」。悠々自適の引退後だった。

ボートレースの取材の合間に、よく話を聞いた。メジロラモーヌのこともよく話した。「慶ちゃん(競馬評論家の故大川慶次郎氏)とは仲が良かったけれど、毎度メジロラモーヌのレース前にテレビで言うんだよ。負けるなら今回です、って。何かけちをつけられているようで、祝勝会でも慶ちゃんとは握手できなかったなあ」。昔は答えてくれなかったことも、よく話してくれた。その時、冗談交じりに恨み言を言った。「先生、昔ラモーヌの話を聞いた時、あんまり答えてくれなかったじゃないですか」。その時に調教師時代とまったく同じ言い方で返された。「そうかい?」。

今年4月に久しぶりに多摩川へ取材に行った。土日ではないのに、姿が見えなかったので心配していた。あの「そうかい?」がもう2度と聞けないことが、たまらなく寂しい。【三上広隆】