代打で大仕事だ! ムーア騎手の落馬負傷により、急きょ乗り替わりとなった藤岡康太騎手(34)が、紅一点ナミュール(牝4、高野)を待望のG1初勝利に導いた。

自身は09年NHKマイルC(ジョーカプチーノ)以来14年ぶりのJRA・G1・2勝目。管理する高野友和調教師(47)は昨年の秋華賞(スタニングローズ)以来となるJRA・G1・5勝目を手にした。

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西日に照らされた淀のターフで、出会ったばかりの人馬が躍動した。紅一点ナミュールが後方2番手から豪快に差し切った。鞍上は“代打”藤岡康太。「プレッシャーを感じていましたし、ホッとした気持ちです」。場内からの大きな拍手と「康太、おめでとう」の声援に頭を下げ、久々に味わうG1勝利をかみしめた。

2Rでのムーア騎手の落馬負傷から約1時間半後、乗り替わりでの騎乗が決定した。それから高野師とともに過去のレース映像を見返し、前走の富士Sに騎乗したモレイラ騎手にも細かく話を聞いた。「これだけの馬ですし、いいイメージができていました」。後方でも焦らず、鮮やかな後方一気。実は直前のプランとは異なる競馬だったが「リズム良く運べれば、最後に脚を使ってくれると分かっていました。切り替えてリラックスして走ることを心がけました」と馬を信じ、エスコートを果たした。

自身は特別な思いで秋競馬を迎えていた。結婚3年目となる今年6月、第1子となる男の子が誕生した。ルーティンワークに育児が加わり、パパとして勝負する秋競馬だった。「やっぱり子どもができて変わりましたね。ジョッキーとして結果を残さないと、という気持ちはより強くなりました」。家族への思いを力に変え、急きょ巡ってきたチャンスをものにした。妻、そして愛息に最高のプレゼントとなった。

ナミュールは富士Sからの連勝でG1初制覇。本格化の4歳秋だ。「カイバ食いが実になり、馬体増が示す通り成長した。22年オークスで3着、馬場が悪かったエリザベス女王杯でも5着ですからね。距離は延びてもこなせると思います」と高野師。次走は未定だが、見据える先は“2階級制覇”か。人馬はそれぞれ、さらなる高みへ歩を進める。【藤本真育】

◆ナミュール ▽父 ハービンジャー▽母 サンブルエミューズ(ダイワメジャー)▽牝4▽馬主 (有)キャロットファーム▽調教師 高野友和(栗東)▽生産者 ノーザンファーム(北海道安平町)▽戦績 13戦5勝▽総収得賞金 4億3655万1000円▽主な勝ち鞍 22年チューリップ賞、23年富士S(以上G2)▽馬名の由来 サンブル川とミューズ川が合流するベルギーの都市。母名より連想