6日の阪神競馬7Rで落馬し、頭部と胸部を負傷した藤岡康太騎手が10日、死去した。35歳だった。JRAが11日、発表した。中央競馬担当の藤本真育記者が悼む。

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あの太陽のような笑顔が忘れられない。藤岡康太騎手は、本当に優しい人だった。忙しい調教の合間を縫い、毎週のように取材に答えてくれる。そして、取材の最後に「また、よろしく」と笑顔で言ってくれる。それがうれしく、小さな励みになっていた。

21年10月、京都大賞典でダービー馬マカヒキを復活勝利に導いた。その翌週、トレセンで僕を見つけると「馬券取ったんやって? すごいなあ。また、馬券取れるように頑張るわ」と笑顔で言ってくれた。取材を信じて的中したことより、年下の僕にも寄り添い、笑顔で一緒に喜んでくれたことが、うれしくて仕方がなかった。本当に優しい人だった。

その優しい表情は、家族の話になると、さらに優しさを増した。お子さんが生まれた直後は「本当にかわいい」と満面の笑みで話していた。毎週の競馬開催後はすぐ家に帰り、お風呂に入れていた。ナミュールでG1を制したマイルCSの後も「お風呂に入れないとあかんから」とすぐに競馬場を後にした。奥さん、そしてお子さんとの時間が何よりも宝物。それゆえ、昨年には「子どもも生まれたし、今まで以上の成績を出さないといけない。勝負の年になる」と覚悟の表情で意気込んでいた。

つい1週間前の4月4日の取材終了後、「また、よろしく」といつも通りに言い残し、バイクでさっそうと去って行った。僕にとってはそれが最後の言葉になった。あの柔和な表情を思い出すと、涙が止まらなかった。もう、あの笑顔は見られない。もう、一緒に喜びを分かち合えない。そう思うと、また涙があふれそうになる。そんな時、康太騎手なら「おい。また、よろしくって言ったやん。いつまでも泣くなよ」と、笑顔で声をかけてくれるに違いないと思った。【中央競馬担当=藤本真育】