3歳馬の頂点を決めるダービー(G1、芝2400メートル、31日=東京)にアスクエジンバラ(牡、福永)を出走させる廣崎利洋オーナー(79)と、鞍上の岩田康誠騎手(52=フリー)の対談が実現した。

オーナーは生命の危機、ジョッキーは騎手生命の危機を経てたどりついた大舞台。福永師、そして厩舎スタッフも含めた全員で挑む祭典を前に、決意を表明した。【対談取材日=5月14日、取材・構成=高橋悟史】

-ダービーウイークを迎えました。

廣崎オーナー(以下、廣) 僕は今回、22年にアスクビクターモアとワイルドモアで挑んで以来4年ぶり。やっぱりいいですよね。毎晩、寝る前に競馬のことを考えていますよ。3歳をどう過ごすかで古馬があるわけですから、勝つこともそうですが参加できることがうれしい。人の縁があって運がついてくる。馬主を40年やってきて分かってきたんです。

岩田騎手(以下、岩) ダービーだから、という思いはもちろんありますよ。ありますけど、僕は他のレースと一緒だと思っています。誤解を恐れずに言えば。福永調教師や厩舎スタッフが任せてくれています。状態を100%に持っていけるし、不安のない状態で出せそう。だから他のレースと同じで挑めるんです。

-岩田さんは12年にディープブリランテで勝っています。

岩 ブリランテとエジンバラはともにスプリングS2着。皐月賞はプリランテが3着でエジンバラは4着。その当時とすごくダブるんですよ。日曜日のトレセンは、コースは左回り調教の日。だから日曜の追い切りにも乗っている。引き運動で一緒に歩いていたら、顔を寄せてくるし、なんなら洗い場でケアもさせてもらってる(笑)。なので他のレースと一緒、というのはこういうところです。騎手人生の支えになっている馬です。

-廣崎さんと岩田さんのコンビは2008年11月15日のトレノジュビリーが初騎乗。翌16日にはアスクデピュティでエリザベス女王杯9着。翌週にはジュビリーで初勝利です。

廣 藤原英さんの厩舎ですか。もう18年たつんですね。

-15年岩田さんが乗って、レッツゴードンキで桜花賞を制覇。これが廣崎さんにとってG1初制覇でした。

廣 馬主28年目でした。先代のメイショウさん(故・松本好雄さん)とはよく喫煙所で一緒になったんです。その時に「俺がG1は勝ったのは馬主27、28年目だったんだ」とおっしゃられていたんです。かわいがってもらいました。「僕らは馬主だから自分がやっているんじゃない。勝てと求めるのはよくない」と常々仰ってました。「人がいて、馬がいて、そしてまた人がいる」という言葉はまさに人と人、馬と人の縁を表していると思います。

若い世代の馬主さんも増えてきました。僕が松本さんから教わったようにおごることなく、どんな人に対しても常に謙虚で。そういうのがいいですよね。

-岩田さんは2020年に落馬で大ケガをされました。

岩 肋骨13本骨折に、右手も骨折。一番痛いのが右手で肋骨の痛みは感じないくらい。お医者さんから「一番痛いところの痛みだけを感じるんだよ」と言われました。

そのケガは関係ないけど、去年は本当に病んでいて、秋くらいには引退しようかと思って、僕の中では決まりかけていた。でもそこで出会ったのがエジンバラ。美浦に滞在して新たにいろいろやってみて、ありがたいことに乗り鞍も増えてきた。だから僕はエジンバラに支えられているんです。

-廣崎さんは数年前にコロナで罹患(りかん)されたとうかがいました。

廣 2022年2月4日の誕生日に入院しました。3週間くらいでしたかね。医者から家族に「酸素飽和がかなり下がってきている」と連絡がいったくらい。冗談じゃなく、本当に三途の川が見えましたよ。幸いにも渡らなかったから生きています。

元々、ヘビースモーカーだったんです。49年間ずっと1日100本吸ってました。それが10年前の69歳の時に友人の安田■(■は隆の生の上に一)夫さん(ドン・キホーテの創業者)から「絶対にやめて」って言われたんです。それでスパッとやめた。その時にやめていなかったら、三途の川を渡っていたでしょうね。ドン・キホーテから取ったレッツゴードンキで桜花賞を勝って、その時の鞍上の岩田さんで今回のダービーに挑む。まさに縁ですよ。

-今年の春は好調。勝ち星も個人馬主としては、メイショウさんに次いでいます。(個人名義で2勝、廣崎利洋HD名義で18勝の合計20勝)

 

廣 今年はありがたいことに好調ですね。ただ、メイショウさんは神様です。好隆さんも素晴らしい方。比べられない。大体、月に2~3勝くらいできたらうれしいですね。こんなことは二度と無いでしょうね。高松宮記念(ペアポルックス)、桜花賞(エレガンスアスク)、皐月賞(エジンバラ)、NHKマイルC(アスクイキゴミ)、ヴィクトリアマイル(ケリフレッドアスク)。オークスも抽選で漏れたけどエンジョイドアスクが出走手前までいきましたから。

-今さらですが、「アスク」のASKとはどういう意味なのでしょうか。

廣 25歳で創業して54年になります。当時は、未来が分からなくて、情報化社会、老齢化社会、高度情報化社会、国際化、こういうものがあった中で未来に問いかける(ASK)。そしてAはありがたく、Sは素直に、Kは感謝するということです。

-岩田さんは動物が好きだと聞きます。

岩 はい。人ってだましてきたり、嫌なことがあるじゃないですか(笑)。動物はそれがない。まっすぐな気持ちでぶつかってきてくれるから大好きです。

-じゃあ新聞記者もまっすぐにぶつかって行けばいいですか。

岩 いや、それは無理です。嫌です。来ないで。取材は嫌です(笑)。

-験担ぎや座右の銘があれば教えてください。

廣 人馬とも無事に走ってくれれば、それでいいです。好きな言葉は「刻石流水」。受けた恩は石に刻み、授けた情は水に流す。父親の墓石にも刻まれています。

-岩田さんは

岩 あんまりしないですけど、競馬の前にトンカツを食べるくらいですかね。

廣 そうなの? 今年の2歳馬で、申請した段階だけど「アスクカツカレー」っていますよ。

岩 すごいですね。

廣 ダービーは出られるだけで本当にすごいこと。とにかく無事に走ってくれることを願っていますよ。競馬はファンの方々があってのもの。もっと競馬界を盛り上げていきたいですし、馬主は続けていきます。

 

◆廣崎利洋(ひろさき・としひろ)1947(昭22)年2月4日、兵庫県生まれ。ASK GROUP HOLDINGS代表。名義は、廣崎利洋HD(株)のほかに個人名義でも所有。87年に馬主免許を取得し、初めての所有馬はアスクヒーロー(牡)。15年桜花賞をレッツゴードンキで勝利しG1初制覇。ストレイトガールがG1を3勝、アスクビクターモアで1勝。