その審議の青ランプが灯ったのは、全馬が検量室前へと戻り、しばらく経った後だった。27日土曜の福島2R。場内アナウンスでは、鼻差で2位入線したテンオンスゴールド(牡、田中剛)の江田照男騎手(54)から、1着入線馬の進路の取り方について降着の裁決を求める申し立てがあったと発表された。
審議の結果、到達順位通りで確定。騎手単独での申し立ては14年ぶりのことだった。異例の青ランプが灯るまでの経緯について、江田照騎手本人を直撃した。
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審議が発生した翌日の日曜、その週のすべての騎乗を終えた江田騎手に声を掛けた。返ってきたのは、「そうそう。新聞社の人を探していたんですよ」という言葉。ベテランジョッキーは足を止め、真意を丁寧に語った。
「僕は降着をアピールしたくて申し立てをしたわけではないんですよ。ただ、あれぐらいの差だったら、やっぱり審議ランプはついたほうがいいと思って。馬券を買ってくださっているお客さんのことを考えても、そうしたほうがいいのかなと」
激しいレースだった。江田騎手騎乗のテンオンスゴールドは直線、勝ち馬と何度も接触。馬体をぶつけられ、バランスを崩したシーンもあった。結果は2着惜敗。それでも、ジョッキーはこう語る。
「僕は『これは降着だ』とは裁決委員に一切言っていないし、実際にそういうことを思ってもいない。ただ、やっぱり審議ランプはついたほうがいいと思ったんです。そうするには、今回みたいに異議申し立てという形を取るしかできなくて」
江田騎手によると、申し立てを行えば審議ランプをつけられることを裁決委員から説明されたという。
「そうか、こういうこともできるんだなと。それで先生(田中剛調教師)に相談して。先生は、普通に結果を受けていた。僕も普通に受け止めていたんですよ。でも、こういう形じゃないと審議のランプはつけられないということだったので」
申し立ての手続きを行うには、保証金として3万円が必要と定められている。その金額について江田騎手は「僕が払いました」と笑いながら明かす。進上金から天引きされる、という形ではないようだ。
「口座引き落としとかでもなく、支払いは現金ですよ(笑い)。今回の審議中、バレットさんにお金を取りに行ってもらいました。そして職員に、『はい、3万円です』と」
降着が認められた場合、保証金は返還される。しかし今回、降着とはならないであろうことは、騎手本人も分かっていた。それでも申し立てを行ったのは、馬券を買ってくれたファンのため。
「裁決がランプをつけないのなら、自分がつけなければと思って」
下された判定に不服があったわけでは決してない。そのことを何度も強調したジョッキーは、最後にこう言った。
「ぜひ、そのように書いていただければ。こうして記者さんに来てもらって、良かった」
穏やかな表情で語ったベテランジョッキーは、さっそうと福島を後にした。【奥岡幹浩】

