200キロ、300キロ、400キロとくれば次は600キロだ。ブルベの種類の中のひとつであるBRM(Brevet du Randonneur Mondiaux)でこれら全ての距離を同一年内で完走すればSuper Randonner(SR)(仏語でシューペル・ランドヌール。英語はスーパー・ランドナー)と呼ばれる称号を得ることができる。だから何だと言われれば、あまり返す言葉はなく「記念メダル」を自腹(1000円)で買うという自己満足の世界となるのだが、実は最も伝統あるブルベでBRMの最高峰である「パリ-ブレスト-パリ ランドヌール」 (Paris-Brest-Paris Randonneur=PBP) の開催年にSRとなればその参加資格をとりあえず得ることになるのだ。


SRのメダル。開催年でデザインが変更されるのでこれは前回の15-18年用
SRのメダル。開催年でデザインが変更されるのでこれは前回の15-18年用

オリンピックと同様に4年に1度開催されるこの大会はパリ郊外をスタートしブルターニュ半島の先端の街ブレストまでの往復1200キロのコースを走るもので、19年の第19回大会は世界各国から7000人超、日本からも400人以上が参加した。第20回となる次回は来年8月に行われるので今年は何の関係もなく、たとえ来年SRを獲得しても、1200キロというとんでもない距離に加え、飛行機輪行とフランス語という高いハードルがあり、さらに事前エントリーするためにはもう少し複雑な条件があったりとややこしくなるので参加するつもりは全くない。しかし、このライドが世界につながっていると思うと、達成感が形になるようでまんざらでもないのは事実だ。


ちなみにブルベは21年9月21日にフランスで最初に200キロのBRMが開催され、昨年が100周年だった。日本では02年に静岡・掛川市で初開催され今年で20年目を迎える。


さて、4年ぶり6度目のSRを目指し、挑戦したのは6月4日に行われたAJたまがわ主催の「野辺山600」。東京・世田谷区の二子玉川をスタートして北上。群馬・渋川市から国道17号へ入って三国峠を越えて新潟へ入り、千曲川沿いを延々と遡上(そじょう)しJR鉄道最高地点のある野辺山へ上る。甲府まで豪快に下った後、甲州街道を走り笹子峠(トンネルではなく旧道)を越えて帰ってくるというコース。獲得標高は7200メートルでコースプロフィルを見ると笹子峠がきつそうだが、あとはヘタレ脚の自分でも何とかなりそうだ。


今回のコース
今回のコース

参加者は三十数人で午前6時と同7時に分かれてスタート。自分は7時に600キロへの第1歩を踏み出した。制限時間は40時間。翌日の午後11時までに帰ってくればいい。


天気予報によるとこの日は晴れだが、翌日の午後からどこかで雨が降ることになっていた。早ければ野辺山の下り。これだけは危険だし、下りでスピードが出せず借金返済が思うようにできなくなるので勘弁して欲しい。笹子峠で降られるのも同様。できれば最後の甲州街道付近までもって欲しいというのがお天道様への強い要望だった。


4日午前6時32分、多摩川・兵庫島公園のスタート地点(東京・世田谷区)
4日午前6時32分、多摩川・兵庫島公園のスタート地点(東京・世田谷区)
4日午前11時15分 88キロ地点、荒川を渡る(埼玉・深谷市)
4日午前11時15分 88キロ地点、荒川を渡る(埼玉・深谷市)

高崎まではほぼ平坦なブルベではおなじみのルートを走る。昼間も夜間も何度も通った道で、交差点名もキューシートを見ないでも言える。中でも秩父鉄道の小前田(おまえだ)駅は人気スポット。必ずストップしてこのポーズをするとかしないとか。「小前田選手権」と言うらしい。


4日午前11時25分 90キロ地点、秩父鉄道小前田駅(埼玉・深谷市)
4日午前11時25分 90キロ地点、秩父鉄道小前田駅(埼玉・深谷市)

ずっと向かい風だったが、日差しが強く気温も高いため逆にこの風がありがたく、日陰ではひんやりするほどで助かった。


44・4キロ地点の青梅のコントロール・ポイント(PC)1で貯金1時間、122・5キロの高崎のPC2では貯金が2時間に増えた。順調にきている。


4日午後0時39分 108キロ地点、鏑川を渡る(群馬・藤岡市)
4日午後0時39分 108キロ地点、鏑川を渡る(群馬・藤岡市)
4日午後2時36分 145キロ地点、吾妻川を渡る(群馬・渋川市)
4日午後2時36分 145キロ地点、吾妻川を渡る(群馬・渋川市)

渋川市に入り、吾妻川を渡った後、150キロ付近で国道17号に入る。いよいよ約50キロ先の三国峠へ向かっての長い長い上りが始まる。このブルベ最初のハイライトだ。


4日午後2時48分 148キロ地点、長坂交差点。国道17号に出る(群馬・渋川市)
4日午後2時48分 148キロ地点、長坂交差点。国道17号に出る(群馬・渋川市)

利根川沿いの緩い坂を上り続ける。沼田付近ではるか前方に雪の残る山が見えてきた。谷川連峰だろうか。そうそう、こういう風景に出会いたかったんだよ。絶景をかみしめながら走り続ける。


国道17号イコール三国街道だと思っていたが、時折、交差する道に対して三国街道という標識があった。イコールではないらしい。


4日午後3時32分 162キロ地点、遙かに見えるのは谷川連峰か(群馬・沼田市)
4日午後3時32分 162キロ地点、遙かに見えるのは谷川連峰か(群馬・沼田市)
4日午後3時34分 163キロ地点、利根川を渡る(群馬・沼田市)
4日午後3時34分 163キロ地点、利根川を渡る(群馬・沼田市)
4日午後3時51分 168キロ地点、登坂車線現る(群馬・みなかみ町)
4日午後3時51分 168キロ地点、登坂車線現る(群馬・みなかみ町)
4日午後4時19分 172キロ地点、三国街道が時折交差している(群馬・みなかみ町)
4日午後4時19分 172キロ地点、三国街道が時折交差している(群馬・みなかみ町)

気がつけば車の通行量も激減。秘境の雰囲気を醸し出してきた湯宿温泉、猿ケ京温泉、赤谷湖と続くあたりから勾配がきつくなり始める。といっても5%前後。時速10キロで何とか上っていける勾配だ。


赤谷湖の先の道の真ん中に猿がいてびっくり。目が合わないように静かに上る。近づくと道をあけてくれたが、向かった先の歩道にも2匹いた。通り過ぎる間、緊張が続いたが幸い何も起こらなかった。ただ、その先に集落があり、犬を散歩させている人がいた。どうなったのかは知るよしもない。


やがて前方に印象的な赤い橋が見えてきた。渡った先に新三国大橋の標識。そして「10キロ先三国峠 カーブ55個所」の案内板が目に飛び込んできた。


4日午後4時31分 176キロ地点、湯宿温泉(群馬・みなかみ町)
4日午後4時31分 176キロ地点、湯宿温泉(群馬・みなかみ町)
4日午後4時47分 180キロ地点、猿ケ京温泉(群馬・みなかみ町)
4日午後4時47分 180キロ地点、猿ケ京温泉(群馬・みなかみ町)
4日午後4時54分 181キロ地点、赤谷湖(群馬・みなかみ町)
4日午後4時54分 181キロ地点、赤谷湖(群馬・みなかみ町)
4日午後5時5分 184キロ地点、新三国大橋(群馬・みなかみ町)
4日午後5時5分 184キロ地点、新三国大橋(群馬・みなかみ町)
4日午後5時6分 185キロ地点、新三国大橋を渡る。東京から171キロ(群馬・みなかみ町)
4日午後5時6分 185キロ地点、新三国大橋を渡る。東京から171キロ(群馬・みなかみ町)
4日午後5時44分 186キロ地点、三国まであと10キロ(群馬・みなかみ町)
4日午後5時44分 186キロ地点、三国まであと10キロ(群馬・みなかみ町)

初めて走る道で周囲の風景に気を取られ、距離はほとんど気にしていなかった。「あと10キロ」と現実をいきなり突きつけられると、少なからずショックは受ける。え~!?、これからが本格的な上りなんですか? もうちょっと短くならない? おまけにあと55カーブか。そういえば軽井沢への碓氷峠も同じような案内板があった。あそこは「12キロ 184カーブ」。かなり少ないのはどういうわけがあるのだろうか。直線のきつい上りがあるのか。


覚悟して上り始めたが、勾配はここでも5%前後。楽というわけではないが、辛抱して淡々と上っていける勾配で息も乱れない。これなら何とかなりそうだ。


軽井沢の184カーブはなかなか減らない印象があったが、ここの55カーブは順調に減っていく感じがした。特に半分を過ぎてからは早かった。「あと○キロ」よりはこの表示の方がモチベーションは上がりそうだ。


4日午後5時7分 191キロ地点、カーブあと10(群馬・みなかみ町)
4日午後5時7分 191キロ地点、カーブあと10(群馬・みなかみ町)

標高1000メートルを超えるあたりからヒルクライムしているのに寒さを感じてきた。途中でアームウオーマーをつけたがピークに近づくにつれ寒さは増すばかり。でも足つきはしたくない。葛藤が続いたが垂れてくる鼻水には勝てず、ピーク直前の54個めのカーブの所にトイレと駐車場がある平坦な広場があったのでストップし、ウインドブレーカーとレッグウオーマーを付けて生き返った。


走りだすとトンネルはすぐ目と鼻の先。ところが最後の55個目のカーブが見当たらない。見逃したかと思ったが、「この先 急カーブ」の標識の影に隠れていた。おいおい、それはないだろう。


4日午後6時4分、最後のカーブ(群馬・みなかみ町)
4日午後6時4分、最後のカーブ(群馬・みなかみ町)
4日午後6時5分、新三国トンネル(群馬・みなかみ町)
4日午後6時5分、新三国トンネル(群馬・みなかみ町)

194・1キロ地点、標高1115メートルの新三国トンネルには午後6時5分に到着。カーブ数の違いはあれ、碓氷峠と同じような感じの上りだった。200キロ弱を走り、経過時間は11時間5分。まずまずのペースで序盤を終えた。


実はここで痛恨のミスをしていた。新三国トンネルは今年3月に開通したばかり。それまでは右手にある三国トンネルしかなく、新トンネル開通以降は閉鎖となっていた。両方のトンネルの歴史的な写真を撮るべきなのに押さえていないじゃないか。バカも~ん。(この項続く)【石井政己】