タイで洞窟に閉じ込められた少年サッカーチームの救出のために泳げない少年を安全に運べる小型潜水艦を完成させて現地に届けたアメリカの天才起業家イ-ロン・マスク氏。自身のトンネル掘削企業「ザ・ボーリング・カンパニー」と宇宙企業「スペースX」のエンジニアを現地に派遣したと言うニュースでもその名前が取り上げられていますが、マスク氏は今、ロサンゼルス(LA)の慢性的な交通渋滞を解決することができるか注目される人物です。

地下トンネルを掘削するシールドマシン(写真はボーリング・カンパニーの公式HPより)
地下トンネルを掘削するシールドマシン(写真はボーリング・カンパニーの公式HPより)

 年々深刻化するLAの大渋滞を解消するためにマスク氏が打ち出したのは、地下トンネル構想。簡単に言うと、LAの地下に大きな穴を掘ってトンネルを作り、そのネットワークを何層にも張り巡らせてそこに車を走らせることで渋滞を解消しようと言うものです。この構想を手掛けているのが、ザ・ボーリング・カンパニーで、すでにロサンゼルス空港の南東にあるスペースX社周辺で実験用のトンネルを掘削しており、地下トンネルはほぼ完成したことをツイッターで明かしています。これが実用化されれば、LAの交通が劇的に変わる可能性もあるのです。

地下トンネルの様子(写真はボーリング・カンパニーの公式HPより)
地下トンネルの様子(写真はボーリング・カンパニーの公式HPより)

 もともとLAの酷い渋滞にイライラしていたマスク氏が、「掘削機ですぐにトンネルを掘り始める」とツイートしたのが2016年12月のことでした。それから1年半、規制上の承認を得ることができれば、公衆にも実験用トンネルが無料開放されることになると言われています。ただ、車社会のLAとは言えども、トンネルを掘ったくらいで渋滞が解消されるのか疑問視する声が出ている他、車を所有しない人への対応や安全面などが指摘されるなど、地下トンネル構想はまだまだ問題が山積みなのも事実です。

広大なLAは完全な車社会。通勤や通学だけでなく、日常生活にも車は欠かせません
広大なLAは完全な車社会。通勤や通学だけでなく、日常生活にも車は欠かせません

 マスク氏はその後、地下トンネルを走る乗り物のイメージ画像を公開し、一般の車だけでなく、公共交通機関としての役割を果たすことを約束。歩行者と自電車を優先させる軌道修正案では、地上に小さな駅をいくつも設置してそこから電動の大型ソリのような形の乗り物で歩行者と自転車を地下に運んで時速200キロで輸送する計画が発表されました。これが実現すると、現在は車で30分以上かかる空港からウエストウッドまでの距離を5分で移動できるようになると言われています。しかし、車と公共移動用の車両をどのようにトンネル内で同時に走らせるのかなど、まだまだ不透明な部分もたくさんあります。

大きなロケットが遠くからでも一目をひくスペースX社の本社。この地下に実験用のトンネルがあります
大きなロケットが遠くからでも一目をひくスペースX社の本社。この地下に実験用のトンネルがあります

 LAは2028年にオリンピック(五輪)開催が決まり、渋滞を解消するために急ピッチで公共交通機関のインフラ整備が進んでいます。地下トンネル構想が実現すれば、その頃には渋滞が緩和されて通勤や移動が楽になっているかもしれません。また、マスク氏は地下トンネル以外にも、「ハイパーループ」と呼ばれるパイプラインのようにつながったチューブの中を減圧して人間を乗せたカプセルを時速1200キロで移動させる構想も打ち上げており、これによって車で6時間ほどかかるサンフランシスコまで30分程度で移動ができると期待されています。マスク氏が描く近未来の超高速交通システムでLAの大渋滞が解決される日は果たして来るのでしょうか。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。日刊スポーツ・コム「ラララ西海岸」)