近年、ロサンゼルス(LA)は全米の大都市の中でもドーナツ天国と言われるほど数多くのドーナツ店があり、しのぎを削っています。ビーガン、オーガニックなどヘルスコンシャスなイメージが強いLAですが、実はLAはドーナツ好きの間では「全米NO1」と言われるほどドーナツがホットなのです。日本ではおやつとして食べるイメージが強いドーナツですが、アメリカでは昔から朝食の定番メニューとして知られ、早朝から出来立てのドーナツを売るお店がたくさんあります。映画のロケ地としても知られる大きなドーナツの看板で有名なランディーズ・ドーナツや俳優のダニー・トレホがオーナーのトレホズ・コーヒー&ドーナツ、見た目もおしゃれな新鮮な果物を使ったドーナツなどが並ぶサイドカー・ドーナツなど行列ができる有名店はたくさんありますが、実は意外なことにカンボジア系移民が経営するお店がとても多いんです。1970年代に混乱を逃れてアメリカにやってきた多くのカンボジア難民が、LAでドーナツ店をオープンしたことが始まりだったと言われており、今もLA近郊に千数百あると言われるドーナツ店の約8割がカンボジア系移民の経営だと言われています。

ドーナツ・シティは普通の街角にあるようなドーナツ店です
ドーナツ・シティは普通の街角にあるようなドーナツ店です
シンプルな昔ながらのドーナツが中心で、朝手作りした分が売れたらお店は閉店します
シンプルな昔ながらのドーナツが中心で、朝手作りした分が売れたらお店は閉店します


そんなカンボジア系移民が経営するある1軒のドーナツ店を舞台に起きた心温まるエピソードが昨年、地元で大きな話題となりました。LA南部のシールビーチにある「ドーナツ・シティ」は、1979年にカンボジア難民としてLAに移住した夫婦が経営するどこにでもありそうな普通の小さなドーナツ店ですが、毎日お店で手作りされるドーナツは地元の人たちに愛されていたそうです。約30年間にわたって感謝祭とクリスマスを除いて休みはなく、ほぼ年中無休で朝から夕方まで夫婦2人でお店を切り盛りしていましたが、1年ほど前にお店から奥さんの姿が消えたことに多くの常連客たちはすぐ気が付いたと言います。妻のステラさんは動脈瘤の手術を受けて療養をしているため、店に立つことができないと知った常連客たちは2人のためにクラウドファンディングで寄付金を募るアイディアを提案したところ、店主のジョンさんは「お金ではなく、妻の介護をする時間が欲しい」と申し出を断ったと言います。それを聞いた人たちは、お金の代わりに時間をプレゼントしようと、ジョンさんを早く家に帰してあげるために早朝から店を訪れ、しかも1人で大量のドーナツを買うなどしてドーナツが一刻も早く売り切れるための協力を始めたそうです。SNSで地域の人に呼び掛けたことも功を奏し、午前中にはドーナツが完売して家に帰って介護をすることができるようになったという心温まるストーリーはSNSでも拡散され、このニュースを聞いた人たちが全米だけでなく、カナダや遠くヨーロッパからも観光で訪れるようになり、ステラさんが仕事復帰して以降もお店は大繁盛をしているそうです。

サンタモニカにあるDK'sドーナツはカラフルな看板で人目を引きます
サンタモニカにあるDK'sドーナツはカラフルな看板で人目を引きます

ドーナツ・シティのドーナツはシンプルな昔ながらのドーナツで、値段も1つ1ドルほどのお手頃価格ですが、サンタモニカで40年近く続く同じくカンボジア移民の家族が経営するDK’sドーナツは色鮮やかなドーナツで地元の人たちを魅了しています。一番人気はフィリッピン産の紫芋ウベを使ったドーナツで、他にもLAらしい真っ青なブルーなドーナツやレインボーカラーなど見た目もカラフルで楽しいドーナツが大人気になっています。120種類ほどある商品は毎日親子で手作りしているため、いつも新鮮でふわふわなドーナツが味わえるのも人気の秘訣です。ショーウィンドーに並ぶカラフルなドーナツは見ているだけでワクワクしてきますが、マフィンやベーグル、ペイストリーなど他にも朝食にぴったりの品が色々揃っており、早朝から夜までひっきりなしに客が訪れています。LAには大勢のカンボジア系移民が移住してコミュニティーを築いていますが、ドーナツ店を訪れるだけでも異文化を感じることができるのはLAならではの体験です。

紫芋ウベのドーナツ(右)やクリームで花をかたどった華やかなドーナツなど見た目がユニークなドーナツがショーケースに並んでいます
紫芋ウベのドーナツ(右)やクリームで花をかたどった華やかなドーナツなど見た目がユニークなドーナツがショーケースに並んでいます

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)