コロナ禍のアメリカで最近よくネットやニュースで耳にするのが、「Karen(カレン)」という言葉。「Karen Has Mask Meltdown & Throws Food(カレンはマスクに怒り狂い、食べ物を投げつける)」というように身勝手な自己主張で暴れる人の名前のように使われているので、「カレンって何者?」「暴れる人はみんな同じ名前なの?」と思ってしまいますが、カレンとは特定の人物の名前ではありません。固定概念が強く、自己中心的で常に自分は正しいと主張する白人女性を総称するスラングです。つまり最近話題になっているカレンとは、マスク着用が義務化されているスーパーマーケットやファストフード店などにマスクを着用せずに入店し、従業員から着用を求められると逆ギレして暴言を吐いたり、ヒステリックに暴れだす人たちのことを意味しています。

LAでは公共の場でのマスク着用は義務化されており、ショッピングモールでもマスク着用を求める看板が設置されています
LAでは公共の場でのマスク着用は義務化されており、ショッピングモールでもマスク着用を求める看板が設置されています

そんなカレンたちに共通しているのは頑なにマスク着用を拒否するばかりか、「自分たちはマスクをしない権利がある」と意味もなく主張し、注意した相手を罵倒することです。ちなみに男性の場合は「ケン」と呼ばれていますが、話題になるのは圧倒的にカレンの方が多いようです。日本でいうとクレーマーとか迷惑な客ということになりますが、アメリカのカレンたちはかなり過激で、買い物かごに入った商品をあたり一面に投げつけて暴れる、注意されて納得がいかないと店の床に座り込んで抗議する、わざと咳をしたりツバを吐いたりする、入店を制止しようとした従業員を突き飛ばすように体当たりで店の中に入ろうとするなど挙げたらきりがありません。最近ではカリフォルニア州サンディエゴのスターバックスでマスク着用を求められたことに激怒したカレンが、フェースブックに「サービスを拒否された」と店員を名指しで書き込んで大炎上する騒ぎも起きています。この投稿を見て店員に同情した人たちがチップをあげようと募金活動を始め、10万ドルを超える額が集まったといういかにもアメリカらしい後日談もありましたが、この話にはまだ続きがあります。この女性は、「(店員は)私を利用して金儲けをした。集まったチップの半分は私にももらう権利がある」と地元テレビ局の取材で語り、自分はこの一件でたくさんの批判や脅迫を受けたのだから店員を名誉棄損で訴える考えがあると主張したのです。女性は呼吸器に問題があって健康上の理由からマスクが着用できないと主張していますが、多くのカレンが同様のことを主張しており、SNSで過去にもマスクに否定的な書き込みをしているため、この女性も巷を騒がせているカレンの一人であることに間違いはないだろうと言われています。

マスクの着用を促す看板なども
マスクの着用を促す看板なども

パンデミック当初はこうしたカレン絡みの話題はニュース番組でも取り上げられていましたが、連日のようにSNSで同様の動画が拡散されるようになり、今では「今度はどこのカレン?」というようにすっかり見慣れた光景にすらなっています。最近はこのように他人に感染させる危険性があることは棚に置いてマスク着用を拒否して逆切れする白人女性たちをカレンと呼ぶことが増えていますが、もともとは常軌を逸した人種差別的発言をする人に対して主に使われてきた呼び名です。例えばここ最近のニュースでは、自宅の前を通る人種差別を訴えるデモ隊から「自分たちの家を守るため」という主張で、ピストルをデモの参加者に向けるカレンと横で半自動ライフル銃を抱える夫ケンの姿が、多くのメディアで取り上げられています。他にもニューヨークのセントラルパークで犬にリードをつけずに放して遊ばせていた白人女性が居合わせた黒人男性から犬をつなぐよう注意されたことに逆キレし、脅されて身の危険を感じていると警察に通報した動画が拡散され際も「セントラルパークのカレン」としてニュースになっています。カレンとは、このように総じて自分の主張を曲げずに白人には特権があると思い込んで行き過ぎた行為をする人たちのことを指しており、SNSでは#KarensGoneWild(カレンたちが怒り狂う)というハッシュタグまで登場しています。

マスク着用を拒否してスーパーマーケットで暴れる女性を報じる記事のスクリーンショット
マスク着用を拒否してスーパーマーケットで暴れる女性を報じる記事のスクリーンショット
カレンについて報じるFOXニュースのサイト。写真は人種差別に抗議する人々に銃を向けるカレンとケン
カレンについて報じるFOXニュースのサイト。写真は人種差別に抗議する人々に銃を向けるカレンとケン

カレンの語源は分かっていませんが、ウィキペディアによると映画「ブラックパンサー」(2018年)に主演したチャドウィック・ボーズマンが、人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」で黒人の集まりに薄味でおいしくない手作りのポテトサラダを持ってきたカレンという名の架空の白人女性をネタにしたことから、そのようないかにも黒人のことを理解していない白人女性を総称する言葉として広まった可能性があるようです。昔からこうした人たちはいましたが、SNSとスマホの発達であっと言う間に動画が拡散されるようになったことに加えてパンデミックによる外出自粛や経済活動の停滞などで多くの人がストレスを感じていること、人種差別抗議運動ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)が全米に拡大して注目されていることへの不満などもカレンが増えている要因になっていると言われています。「利己主義」「不満への要求」「自己中心的」といった共通の特徴があるカレンやケンもまた、新型コロナウイルス感染拡大が止まらないアメリカで今、社会問題の一つとなっているのです。

レストランでも食事中以外はマスク着用が求められており、入り口にマスクなしでの入店お断りの張り紙を出す店が増えています
レストランでも食事中以外はマスク着用が求められており、入り口にマスクなしでの入店お断りの張り紙を出す店が増えています

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)