新型コロナウイルスの感染予防対策を怠ったスタッフを怒鳴る音声データが流出し、世界中のメディアを騒がせているトム・クルーズ。

コロナ禍で2度に渡って撮影が中断されていた「ミッション:インポッシブル」シリーズ第7弾の英ロンドンでの撮影中にソーシャルディスタンスを守らないスタッフに対して「今度やったらクビだ」などと汚い言葉を使って怒鳴る音声が報じられると、プロとして当然のことだと擁護する声がある一方でネットでは批判的な書き込みもあって賛否両論ですが、クルーズは実はとても気遣いの人として知られています。

筆者も過去にレッドカーペットでインタビューをした際に、誰よりも早く到着して1時間以上かけて集まったファンにサインや記念撮影をする姿を目撃していますし、上映開始時間が迫ってスタッフから質問を止められた時も「(舞台挨拶して)戻ってくるから待ってて」と言い残してその場を去り、その後戻ってきて最後まで取材を続ける姿も目のあたりにしています。

そんなクルーズは毎年、クリスマスの時期になるとスタッフや共演者、業界の関係者らに1年の感謝を込めてケーキを贈ることで知られています。日本で例えるならお歳暮といった感じでしょうか。しかも、クルーズが毎年贈るのは、ロサンゼルス(LA)郊外ウッドランドヒルズにある小さな家族経営のベーカリーのケーキと決まっており、数百個単位で注文することから店側はクルーズのお陰でビジネスが成り立っていると感謝しているのです。

巷では「クルーズ・ケーキ」とも呼ばれるそのケーキは、いったいどのようなものなのでしょう。LAの中心部から車で30分ほど北西に行った場所にあるドアンズ・ベーカリーは、1984年に創業。現在78歳になるカレン・ドアンさんが始めた店で、今はその息子のエリック・ドアン氏と共に店を切り盛りしています。

ドアンズ・ベーカリーは家族経営の小さなお店
ドアンズ・ベーカリーは家族経営の小さなお店

ケーキやクッキー、パイ、カップケーキなど様々なスイーツを店頭販売している他、全米に配達可能なグルメ宅配サービス「ゴールドベリー」とも提携して遠方からの注文にも対応しています。店内のショーケースには様々な種類のケーキが並んでおり、カスタムメイドのケーキの注文も受け付けていますが、クルーズが毎年注文しているのは、カレンさんが考案したオリジナルの「ホワイトチョコレート・ココナッツ・ブンド・ケーキ」と名付けられたケーキです。

ホワイトチョコレート・ココナッツ・ブンド・ケーキ (写真はドアンズ・ベーカリーのインスタグラムより)
ホワイトチョコレート・ココナッツ・ブンド・ケーキ (写真はドアンズ・ベーカリーのインスタグラムより)

直径約25センチのリング型のケーキで、しっとりとした贅沢なココナッツパウンドケーキに甘いホワイトチョコレートのチャンク(かたまり)を混ぜ合わせ、濃厚なクリームチーズのフロスティングを重ね、さらにトーストしたココナッツフレークをまぶしたものです。過去にこれをもらったセレブたちがテレビのトーク番組などでこの通称クルーズ・ケーキを大絶賛しており、ドアンズ・ベーカリーの看板商品として一般消費者にも人気となっています。値段は約50ドルで、宅配サービスだとドライアイスと送料込み99ドルで全米どこへでも配達してもらえます。

午後にはショーケースの中に残っているケーキもごくわずかに
午後にはショーケースの中に残っているケーキもごくわずかに

このケーキを贈るようになったきっかけは、甘いものに目がない元妻のケイティ・ホームズが映画「デンジャラスな妻たち」(08年)で共演したダイアン・キートンだったとカレンさんは明かしています。2人はお互いに一番おいしいと思うケーキを持ち寄って食べ比べしようという話になり、その時にキートンが選んだのがこのケーキで、味見役をしたクルーズが一口食べてすっかり気に入ってしまったのだと言います。

「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(94年)でクルーズと共演したキルスティン・ダンストが「トム・クルーズのおいしいケーキ」と紹介したことで広く知られるようになり、「ジャック・リーチャーNever Go Back」(16年)で共演したコビー・スマルダーズやクルーズと2004年に交際の噂のあったソフィア・ベルガラらケーキをもらったセレブたちが、口を揃えて「おいしい」とメディアやSNSで紹介しています。

こじんまりとしたかわいい店内
こじんまりとしたかわいい店内

しかし、カレンさんによると長年に渡ってひいきにしてもらっているもののクルーズには一度も会ったことがなく、いつもスタッフを通じて大量注文が入るのだといいます。スタッフはいつも丁寧親切だと話すカレンさんは、クルーズがビバリーヒルズに住んでいた頃は、家族やスタッフ用にと感謝祭やクリスマスにはお礼を兼ねてたくさんのケーキを届けていたそうです。

そんなクルーズですが、撮影のために常日頃から体を鍛えている自身はケーキを食べることができないのだそう。そのため、「ケーキのおいしさを報告してね」と贈った人たちにはリクエストしているのだと言います。「おいしかった」という報告を聞き、皆が喜んでいる様子を見るのがクルーズの楽しみのようです。コロナ禍の今年も変わらずケーキをプレゼントしており、さっそくクルーズ・ケーキをもらったロージー・オドネルが、ゴールドのゴージャスなリボンがかかったケーキの箱をインスタグラムで公開しています。

ロジー・オドネルがインスタグラムで公開したクルーズから贈られたケーキの箱(写真はロジー・オドネルのインスタグラムより)
ロジー・オドネルがインスタグラムで公開したクルーズから贈られたケーキの箱(写真はロジー・オドネルのインスタグラムより)

コロナ禍でたくさんの個人経営の店が経営難で店を閉めている中、クリスマスを前に今年もドアンズ・ベーカリーは大繁盛で、予約したケーキを受け取る人が次々と来店し、クルーズ効果でケーキは飛ぶように売れているようです。ホリデーシーズン真っ盛りの今、事前予約なしに大人気のクルーズ・ケーキをゲットすることは困難で味見ができないのが残念ですが、今度チャンスがあったらぜひ食べてみたいと思っています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)