新型コロナウイルスの感染拡大によって今年初めには集中治療室の空き病床が0%となり、救急搬送が断られるなど医療崩壊が起きていたロサンゼルス(LA)。1日の新規感染者数が1万5000人超えを記録し(LA郡の人口は約1000万人)、死者数が250人を超える日もあるなど感染爆発で全米最悪のホットスポットとなっていた年末年始から4カ月がたった現在、あの頃の悪夢がうそのように人々は以前の日常を取り戻しつつあります。

外で食事をしたり友人らと集ったりといった日常も戻りつつあります
外で食事をしたり友人らと集ったりといった日常も戻りつつあります

現在は1日の新規感染者数が300人を下回っており、今月に入っておよそ1年ぶりに2日連続で死亡者ゼロも記録しています。人口10万人当たりの1日の新規感染者数でみてもLA郡は4日現在3人にまで減少しており、直近1週間で30.85人だった現在の日本と比較すると日本の方がLAより10倍状況が悪いことになります。

陽性率も0.8%まで減るなど劇的に状況が改善しているLAでは、感染状況に応じて4段階で実施されているコロナ対策においてはじめて4段階の中で最も深刻度が低いとされる「低度のまん延」に移行することが決まり、6日からまた一段と経済活動が緩和されます。ワイナリーやブルワリーなどアルコールを提供する施設も屋内で50%の収容人数で営業を行うことができるほか、スポーツジムも現在の25%から倍の50%まで収容人数を増やすことができ、ドジャースタジアムなど屋外のスポーツ観戦も現在のおよそ倍となる67%まで観客を入れることが可能になります。また、1年ぶりに営業を再開したテーマパークも35%のキャパで営業ができることになり、多くの人が再び娯楽を楽しめるまでに回復しています。そしてこのまま状況が好転すれば6月15日にはすべての規制が解除される見通しで、イベントやコンサートなどの開催も可能となり、夏にはコロナ禍前の日常に戻れると期待されています。

人出も増えて街は活気を取り戻しつつあります
人出も増えて街は活気を取り戻しつつあります

なぜ4カ月間で全米ワーストからベストと言われるまでに状況を改善できたのでしょう。もちろんワクチンの普及が大きなウエートを占めていますが、同時に年末年始の感染爆発で多くの人が気づかないうちに無症状または軽症で感染して抗体を保有していることも要因の1つにあげられています。一方、ワクチン接種だけでみるとカリフォルニアの接種率は全米の平均とほぼ同じで必ずしも高いわけではないことから、別の要因としてカリフォルニア由来の変異株の存在も指摘されています。カリフォルニア州で昨年末に流行したこの変異ウイルスがより感染力の高いイギリス変異株を抑制した可能性があるというのです。しかし、それ以外にも州の厳格なコロナ対策の成果も無視はできません。

最悪の状況から一転してコロナ禍前の日常を取り戻せるほど状況が改善しているLAから感染拡大が止まらない日本を見ていると、歴然とした政府のコロナ対策の差を感じます。LAでは批判を浴びながらも昨年のクリスマスシーズン最中に飲食店を閉鎖するなど再度のロックダウンに踏み切り、夜間外出禁止令も発令して不要不急の外出を控え、人との接触を極力減らしたことで、最悪の状況から脱することができました。また、ワクチン接種についても医療従事者とともにクラスターの発生するリスクが高い介護施設や高齢者施設の入居者やスタッフへの接種を最優先させたことも功を奏し、こうした施設での感染が大幅に減少したことも効果があったと言えるでしょう。一方、日本ではワクチン接種がなかなか進まない中で飲食店への営業時間の短縮を要請する傍ら大勢の人が集まる聖火リレーを行っていることやコロナ禍にGoToキャンペーンで政府が観光や飲食に出かけるよう支援することは矛盾だらけで、アクセルとブレーキを同時に踏む政策が状況を悪化させているように感じてなりません。

LA郡のワクチン接種完了者は36%で、65歳以上の高齢者に限っては70%が接種を終えています
LA郡のワクチン接種完了者は36%で、65歳以上の高齢者に限っては70%が接種を終えています

カリフォルニア州では4段階で示された基準に従って緩和策が取られており、状況が改善すれば規制が緩和される一方、感染が再拡大すれば忖度(そんたく)や例外なく再び規制を厳しくしています。科学的根拠に基づいてどの状況になればどの程度の経済活動が可能になるのかといったことが明確に示されているLAと比較すると日本のコロナ対策における基準は曖昧で、オリンピックを開催することに固持しているとアメリカのメディアで批判されていることにも納得がいきます。映画館やテーマパークまでもが1年以上閉鎖されていたことからもどれだけ厳しい感染対策が取られているか想像できると思いますが、規制するだけではなく、民間企業支援や失業保険給付、3度にわたる現金給付などアメリカ史上最大の救済措置が行われている点も日本とは大きな違いがあります。

カリフォルニア州は感染状況に応じて4段階で経済活動の規制緩和を行っており、それぞれどの状況になれば規制が緩和されるのか基準が明確化されています(カリフォルニア州の新型コロナに関する公式サイトより)
カリフォルニア州は感染状況に応じて4段階で経済活動の規制緩和を行っており、それぞれどの状況になれば規制が緩和されるのか基準が明確化されています(カリフォルニア州の新型コロナに関する公式サイトより)

米食品医薬品局(FDA)が12歳から15歳の子供へのファイザー製ワクチンの接種を来週にも承認する可能性もあり、バイデン政権の下で接種拡大が進んでいるアメリカは、7月4日の独立記念日までに脱コロナを目指しています。そんなアメリカをよそに、現在の日本の状況で今後2カ月半あまりの間に感染拡大を抑え込んでオリンピックを成功させることができるのか疑問を持つ人はアメリカでも少なくはありません。

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)