東京オリンピック(五輪)まで1カ月を切り、カウントダウンが始まる中、いかに新型コロナウイルスの感染拡大を防ぎながら関係者や日本国民の安全を担保するかが今後最大の課題となることは言うまでもありませんが、入国したウガンダ選手団から2人の陽性者が出るなど当初から懸念されていた事態も起きています。報道によると、入国したウガンダ選手団9人は全員がワクチンを接種し、出国前の検査では陰性だったということですが、ではなぜ感染が防げなかったのでしょう。コロナによるパンデミックが始まって以降、「誰もが何度でも無料で検査を受けられる」PCR検査の拡充による感染対策を積極的に行い、現時点ですでに住民の半数以上がワクチン接種を完了しているロサンゼルス(LA)で、この1年3カ月コロナ対策を見てきて感じたこと、分かったことからPCR検査とワクチンについて検証してみました。

LAでは市内のあちらこちらにこうした看板が設置されており、気軽に検査を受けることができます
LAでは市内のあちらこちらにこうした看板が設置されており、気軽に検査を受けることができます

Qなぜ出発前のPCR検査で陰性だったのに、入国時の検査では陽性になるの?

まず最初に、PCR検査は感染していないことを100%証明するものではないことが前提にあります。PCR検査で陰性だったということは、その時点でウイルスを検出できなかったことを意味するにすぎず、感染している可能性は低いものの100%感染していないとは言い切れないのです。例えば感染直後は体内のウイルス量が少ないため、検査しても陰性になる確率が高く、感染が疑われる場合でも無症状なら3~5日後に検査を受けるよう専門家が助言しているのはそうした理由があるからです。LAの保健当局も濃厚接触直後は検査しても陰性になる可能性が高いため、数日間自己隔離して健康状態を確認した後に検査を受けることを推奨しています。

つまり、今回のシナリオで考えられることの1つは、出発前の検査時点ですでに感染していたもののウイルス量が少なく、検査では陰性だったということです。そして、もう1つ考えられることは、検査後出発するまでの期間に感染した可能性です。潜伏期間を考えると空港の検査で陽性になった人は、機内で感染した可能性は極めて低いので、検査後に自国で感染していたと考えるのが妥当でしょう。

ウガンダ選手団の感染を伝えるAP通信の記事
ウガンダ選手団の感染を伝えるAP通信の記事

QではなぜPCR検査が必要なの?

PCR検査の拡充は無意味だという趣旨の主張をする人がいますが、新型コロナウイルスのやっかいないところは、無症状で本人が自覚しないまま周囲の人に感染を広げていることです。例えば、濃厚接触が疑われる場合や感染したかもと不安な人が誰でも気軽に検査を受けることができれば、感染者を早期に発見して隔離することで周囲の人への感染を食い止めることができ、結果して失われる必要のない命を守ることにつながります。もちろん検査数を増やせばそれに伴って感染者数も増えることになるため、医療体制の逼迫を懸念する声もありますが、LAでは無症状や軽症の人は基本的に入院せず自宅等で自己隔離しながら健康観察を行うため、むしろ感染拡大によって重症化するリスクが高い人たちの感染を防ぐことで限られた医療資源を守るメリットの方が大きいと言われています。また、医療関係者や介護施設で働く人なども、定期的に検査が受けられれば患者や家族への感染の心配を減らすことができ、しいては施設内でのクラスター発生も抑えることができると考えられています。

また、イベントなど不特定多数の人が集まる場でも陰性証明があれば100%ではないにせよある程度の安全が保障されるため、LAではNBAの試合などが行われているステープルズ・センターへの入場にはワクチン証明または陰性証明書の提示が義務付けられています。当然、五輪も有観客にするなら観客にはワクチンまたは陰性証明の提示を義務付けるべきだという声も上がっています。また、完全なバブルを作って感染拡大を防ぐのであれば、選手や関係者だけでなく、バブルに出入りするボランティアや日本側のスタッフもPCR検査を定期的に受けることでより安心安全な大会になると考えられます。

ステープルズ・センターの入場には、ワクチン証明または陰性証明が必要です(ステープルズ・センターのホームページより)
ステープルズ・センターの入場には、ワクチン証明または陰性証明が必要です(ステープルズ・センターのホームページより)

Q2人目の感染はいつ?

選手団9人のうち成田空港で陽性判定を受けたコーチ以外全員が陰性で入国が認められ、大坂へ移動した後にさらに1人の陽性が判明したということですが、出発前の空港や機内などで陽性者との濃厚接触による感染がもっとも可能性が高い感染経路と思われます。感染して発症するまで平均して5~6日ほどとされるため、空港での検査では陰性になったものと推測できます。

Q隔離が必要だったのでは?

こうした状況から、感染拡大が続いていたLAでは空港や駅に他州、国外から到着した人は10日間の自己隔離を行うよう義務付けていました。発症する2日前から発症後7~10日間が人に移す可能性が高く、例え本人が無症状であっても他人に感染させるリスクがあるからです。つまり、出発前、出発地の空港までの移動中および空港内、そして機内で感染した場合も、到着後10日間の隔離を経れば他人に感染させる可能性が低くなることが、一定期間の隔離が必要とされる理由です。

入国時の隔離措置を巡っては、海外から帰国する日本人の間でも批判の声が多く上がっていますが、中でも一番多いのが五輪関係者の特例による隔離免除の不平等さです。ウイルスは人を選ぶわけではないため、どんなに予防をしっかりと行っている五輪関係者でも感染するリスクはゼロではなく、検査もワクチンも100%ではない以上、少なくとも到着後5~10日間の隔離措置は必要なのではというのが海外から五輪に対する水際対策をみていて感じることです。

Qワクチン接種していたのに、なぜ感染したの?

報道によると選手団はアストラゼネカ製のワクチンを自国で2回接種していたそうですが、問題は接種したタイミングです。アストラゼネカのワクチンもファイザーやモデルナ製と同じく2回の接種が必要で、1回目の接種から8~12週間後に2度目の接種をすることが推奨されています。そして、体内で完全に免疫ができるまで2回目の接種から2週間程度必要だと言われているため、仮に接種後2週間未満だった場合は、出発までの間に感染した可能性はあったということになります。

Qワクチンは変異株には効かないでは?

インドで確認された変異ウイルス「デルタ株」の感染が広がりを見せる中、ワクチンの有効性を疑問視する声もあります。ワクチン接種が進み感染者数が減少していたイスラエルやチリでも感染が広がっており、ワクチン接種率が60%を超えるイギリスもロックダウンの全面解除が見送られる事態になっています。こうした状況から各国がどのワクチンを使っているのかということも今後、五輪の開催に当たって問題となってくるでしょう。

例えばファイザーやモデルナ製のmRNAワクチンは他のものより予防効果が高いと言われていますが、それでもイギリスで特定された「アルファ株」に対しては90%を超える予防効果があるもののデルタ株に対しては79%に減少するとの報道もあります。それが、アストラゼネカ製になるとデルタ株に対しては60%の予防効果しかないとイギリスのメディアは伝えており、さらに中国製ワクチンの摂取が進む国でも感染拡大が顕著なことからワクチンの種類によっては変異株による感染を抑えられない可能性も出ています。

また、摂取が進むアメリカでもワクチン接種完了後に感染する「ブレイクスルー感染」が起きており、重症化するリスクは低いものの感染を完全に防ぐことはワクチンだけでは難しいことも浮き彫りになっており、五輪を前に感染対策のさらなる強化が必要となってきそうです。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)