今年も残すところあと1カ月余りとなりましたが、コロナ禍で2年ぶりとなるクリスマス商戦に沸くアメリカの小売業界で今、頻発する略奪事件が大きな社会問題となっています。

特にここ、カリフォルニア州では11月に入って高級ブランド店や百貨店が相次いで被害に遭っており、多くの買い物客で賑わうブラックフライデーにもロサンゼルス(LA)の高級ブティック街にあるボッテガ・ヴェネタで集団強盗が起きたことが地元メディアで伝えられています。高級ブランド店のみならず、ホームセンターやドラッグストアなどでも同様の事件が複数件起きており、サプライチェーンの混乱による物資不足や深刻な人出不足、異常なインフレに直面する小売業界にさらに追い討ちをかける事態となっています。

いずれも突如として現れた集団が陳列棚から大量の品を一斉に盗む犯行手口が共通しており、夜間に窓ガラスを割って侵入する以外にも白昼堂々と略奪が行われるケースもあり、組織的な犯行であると見られています。また、多くの現場で目撃者によって撮影された動画や防犯カメラの映像が存在することも共通していますが、犯人の多くは捕まっておらず、同一の集団が場所を変えて行っている犯行なのか、模倣犯なのかは不明です。

「スマッシュ・アンド・グラブ(陳列窓を壊して強盗すること)」や公共の場に突如現れ人々の注目を集めて解散する群衆にひっかけて「フラッシュモブ窃盗」などと呼んでメディアも大々的に報じていますが、分かっているだけでもここ1か月ほどで100件近く起きています。

シカゴ郊外のルイ・ヴィトンで起きた略奪事件の防犯カメラの映像を公開したABCテレビの画面より
シカゴ郊外のルイ・ヴィトンで起きた略奪事件の防犯カメラの映像を公開したABCテレビの画面より

11月17日に買い物客で賑わうシカゴ郊外にある高級ブランド、ルイ・ヴィトンの店舗で、午後3時半頃に14人の強盗が押し入り、展示されていたハンドバッグなど約1400万円相当の商品を手あたり次第ごみ袋に詰め込んで逃走する事件が発生。その一部始終は防犯カメラに撮影されており、従業員や他の買い物客が逃げ惑う中、マスク姿の集団が犯行に及ぶ様子がテレビでも公開されました。また、その2日後にはサンフランシスコ中心部ユニオン広場にあるルイ・ヴィトンやバーバリー、イヴ・サンローランなど高級ブランド店をはじめ、ドラッグストアなど複数の店舗を狙った犯行が行われ、さらにその翌日もスキーマスクで顔を隠してバールなど武器を手にした80人もの集団がショッピングモールの一角にある百貨店ノードストロームを襲撃。25台の車が百貨店前の道を封鎖し、店内に一斉になだれ込んだ集団が商品を奪って車で逃走する大規模略奪で、従業員に負傷者が出たことも報じられています。また、21日にはサンフランシスコ郊外にあるショッピングモール内の宝石店に30~40人の10代とみられるフードを被ってマスクをした子供たちが押し入る事件も発生。買い物客で賑わう午後5半頃に行われた犯行の一部始終は、向かいの店舗にいた目撃者によって撮影されており、店内から奪った商品を手に逃げ出す少年たちの姿がSNSで拡散されています。サンフランシスコでは3日連続で大規模略奪が起きていますが、対岸およそ13キロ東に位置するオークランドでも今月に入って少なくとも同様の略奪が24件起きていることが報じられており、全米各地に飛び火しています。

LAでも昨夏に人種差別抗議デモに乗じて行われた略奪の被害にあったショッピングモール、ザ・グローブ内にあるノードストロームが再び狙われ、22日夜に約20人が店内に侵入して商品を奪って車で逃走しており、少なくとも3名が逮捕されたと伝えられています。24日にもLA郊外のショッピングモールの店舗で複数の男性が約230万円相当のバッグなどを盗んで逃走したことが報じられています。

昨夏に続いて略奪被害にあったザ・グローブにあるノードストローム
昨夏に続いて略奪被害にあったザ・グローブにあるノードストローム

略奪が多発する背景には、コロナ禍による経済的困窮や予算削減による警察官不足が原因で犯罪が増えていることなどがあげられていますが、カリフォルニア州では950ドル以下の万引きや窃盗は軽犯罪となるため逮捕されても罰金のみで収監されることがないため、気軽に犯行を繰り返す人が多いことも指摘されています。また、銃社会のアメリカでは窃盗を目撃しても相手が武器を持っている可能性もあることから関わることを避け、そのまま何もせず見過ごす従業員も多いと言われています。警察も軽犯罪の取り締まりを強化するほど予算も人員も割けないことから半ば野放し状態のため、カメラの前でも堂々と窃盗する人が後を絶たないのが現状のようです。その結果、ABCテレビによるとアメリカの小売業界では組織的な略奪で年間650億ドルもの損失が出ており、大手ドラッグストアでさえ窃盗被害によって店舗閉鎖を余儀なくされているといいます。そしてこれら盗品の多くが、アマゾンを含むオンライン上のプラットフォームで違法に販売されており、その額は5000億ドルを超えるとも推定されています。

ビバリーヒルズのロデオ・ドライブにあるルイ・ヴィトンでも略奪未遂事件が
ビバリーヒルズのロデオ・ドライブにあるルイ・ヴィトンでも略奪未遂事件が
高級ブランドが軒を連ねるロデオ・ドライブは警備も強化されています
高級ブランドが軒を連ねるロデオ・ドライブは警備も強化されています

ルイ・ヴィトンと高級百貨店サックス・フィフス・アベニューが2週間ほど前に被害にあったビバリーヒルズの高級ブランド店が軒を連ねるロデオ・ドライブでは、パトロールする警察官の姿が目につくほか、普段よりも多くのプライベートセキュリティーが警備に当たるなど物々しい雰囲気になっています。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年は大きく売り上げが落ち込んだ小売業界にとって2年ぶりに買い物客で賑わうことが期待されている年末商戦だけに、当面はセキュリティーの強化が最優先課題となりそうです。(ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)