気候変動問題に取り組むため、世界的にCO2など温室効果ガス削減に取り組む動きが活発になっていますが、ここカリフォルニア州では2035年までに州内で販売されるすべての新車をゼロエミッション車(ZEV=有害物質を全く排出しない車)にする目標を掲げています。ニューサム知事が2020年にZEV義務化を宣言し、カリフォルニア州大気資源局に具体的な規制作りを進めるよう指示したもので、13年後にはハイブリット車を含めエンジン車の販売ができなくなります。カリフォルニア州は2002年に世界で初めて自動車から排出される温室効果ガス削減を目的とした排ガス規制法を成立させるなど独自の厳しい取り組みを行っており、全米の環境法をリードしています。

シュワちゃんが起こした事故で、巨大なユーコンに守られたと伝えるメディアの記事
シュワちゃんが起こした事故で、巨大なユーコンに守られたと伝えるメディアの記事

カリフォルニアはアメリカの州の1つにすぎませんが、一昨年の州内総生産額は3兆ドルを超えており、世界5位の経済規模を誇っているだけに同州内の排出量削減は地球規模で見ると大きな意味があることだと言われています。また、巨大な州であるが故に排出ガスによる大気汚染も深刻で、特に車社会として知られるここロサンゼルス(LA)では「スモッグ」と呼ばれる排ガスによる大気汚染に悩まされてきた歴史があります。晴天でもどんよりした空気で視界が悪く、建物がかすんで見えるなど健康を害するほどの大気汚染が問題視されてきたLAでは近年、ハイブリッド車や電気自動車、水素エンジン車などZEV車の割合が増えています。

環境問題に敏感なハリッドセレブたちの間でもエコカーを愛車にする人が増えており、映画の祭典アカデミー賞授賞式でも会場入りする際にリムジンの代わりにエコカーを使用するなど環境への取り組みも目立つようになっています。そんな中、03年から11年までカリフォルニア州知事を務めたアーノルド・シュワルツェネッガーが先週起こした交通事故を巡り、運転していた愛車が注目を集めています。

LAのスーパーマーケットには電気自動車(EV)専用駐車スペースもあります
LAのスーパーマーケットには電気自動車(EV)専用駐車スペースもあります

シュワちゃんと言えば、軍用4輪駆動車ハーヴィーの民間仕様車としてAMゼネラルから1992年に発売されたハマーを初代から愛車としており、戦車のような巨大なピンツガウアーで買い物に出かける様子がパパラッチされるなど軍用車も複数台所有しています。知事時代はガソリンを大量消費すると言われるハマーや自家用機で通勤していたことなどが批判され、排出ガス削減に厳しいカリフォルニア州においてシュワちゃんの愛車は度々やり玉にあげられてきました。しかし、そんなシュワちゃんがLA西部の自宅近くで起こした事故で命拾いしたのは、頑丈なGMCユーコンに乗っていたからだと話題になっています。シュワちゃんが運転していたユーコンが、大破したプリウスのフロント部分に前輪を乗り上げる衝撃的な事故直後の様子がパパラッチされ、「まるで映画のスタントを見ているようだった」との目撃者の証言も報じられましたが、本人は無傷で翌日には元気に自転車に乗る姿がキャッチされるなどぴんぴんしていることから、エコカー推進とは逆行する大きく頑丈なアメ車に命を守られたと皮肉るメディアも出ています。

いずれにしても御年74歳のシュワちゃんが無事だったことは何よりで、環境に優しいプリウスを大破させて運転手に軽傷を負わせながらも自らは無傷で済んだのは、やはり頑丈な車のおかげというのはあながち間違いではないでしょう。ちなみに、大型車派のシュワちゃんは過去の演説で、環境への配慮からガソリンを大量消費しないよう水素エンジンやバイオ燃料エンジンなどに変更していると話しており、自由に好きな大型車に乗りながらも温室効果ガス排出削減への取り組みには賛同の立場を示しています。

住宅街の路上に並ぶSUV。ユーコンのような大きな車もLAでは珍しくありません
住宅街の路上に並ぶSUV。ユーコンのような大きな車もLAでは珍しくありません

LAは全米の中でも車の運転が荒い人が多いと言われ、市内の一般道を65キロ超えのスピードで走行する車はたくさんいますし、高速道路では120キロ超えも珍しくありません。当然ながら事故も日常茶飯事で、筆者も目の前で車が横転する事故を目撃したことがありますし、大破して炎上する車も何度か見ています。それだけに、エコカー時代になった今もシュワちゃんのように身を守ってくれる頑丈な車を好む人は少なくありません。日本に比べて道路や住宅が広いアメリカでは、フルサイズのSUVやピックアップトラックは昔から人気があり、キャデラックのエスカレードやジープのグランドチェロキーなど大きな車も珍しくありません。

一方でカリフォルニア州では90年代から州内で一定台数以上を販売する自動車メーカーに対して販売する自動車の1割ほどをZEV車にすることを義務付けており、25年以降は22%相当に引き上げられることも決まっており、ガソリン車の販売は年々減少しています。さらにカリフォルニア州でガソリン車を運転するには2年に1度「スモッグチェック」と呼ばれる厳しい排ガス検査を受けてパスすることも義務付けられており、規定値に満たさない車は車両登録ができず、運転することができない仕組みになっています。これは1976年以降に生産されたすべてのガソリン車が対象のため、古いガソリン車はどんどん減っています。ちなみに2021年春に発表されたカリフォルニアでもっとも人気の車種は、トヨタのカムリが1位で、2位はホンダ・シビック、3位にプリウスがランクインする結果になっています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)