アメリカ市場において、焼酎は日本酒に比べて圧倒的に知名度が低く、一般の消費者に浸透していないのが現状です。そんな焼酎を現地のミレニアル世代に楽しんでもらうイベントが、ロサンゼルス(LA)で行われ、日本におけるミクソロジーの第一人者として知られる南雲主于三(なぐも・しゅうぞう)氏がゲストバーテンダーを務めました。

日本では焼酎と聞くと、ロックや水、お湯割りが定番の飲み方だと思われる方が多いかもしれませんが、認知度が低く、難解でひと癖あるイメージが強い焼酎をアメリカの消費者に楽しんでもらう入り口として、まずはカクテルとして提供する取り組みが現地では行われています。

日本産農林水産物・食品を現地の一般消費者に普及・浸透させるための取り組みを行うJFOODOの招へいで、イベントに参加した南雲氏に話を伺いました。

革新的なカクテルを生み出すミクソロジスト南雲主于三氏(JFOODO提供)
革新的なカクテルを生み出すミクソロジスト南雲主于三氏(JFOODO提供)

-9つのバーで計18種類の焼酎カクテルを提供し、大盛況でした

「焼酎を楽しみたいというはっきりとした目的を持った方が多かったです。初めてという方も大勢いましたが、どんな味なのだろうと、ある種ポジティブに捉えていたように思います。“おいしい”という声をいただき、おおむね良い反応だったと思います。

特にアメリカ人のゲストを意識して作ったということはありませんが、焼酎単体ではなく、複数のスピリッツとミックスしたことは結果的に良かったと思います。LAを含めて焼酎はまだ認知がないので、味のイメージがつかめないそうです。こちらの方はバーボンが好きとか、テキーラがいいとか好みがある方が多く、メニューで自分が好きなスピリッツのカクテルを探すため、焼酎カクテルはメニューにあってもなかなか選ばれないそうです。ですから、焼酎とメスカル、テキーラなどを合わせたことで、それぞれのスピリッツが好きな人にも焼酎を飲んでもらうことができ、今の初期プロモーションではミックスするのが良いという声を何軒かのバーで伺いました。

昔はジンだけ、ウオッカだけと単体で使うことが多かったですが、今はベーススピリッツを混ぜるのが普通になっており、焼酎と何かを混ぜたら良くないのかというと、そんなことは全然ないと思います」

コーヒーリキュールを使った焼酎カクテル
コーヒーリキュールを使った焼酎カクテル

-焼酎のうまみそのままを楽しんで欲しいという声もあります

「ウイスキーやコニャック、ジンだってそうです。自分がおいしいと思うものを作ったら、そのまま飲んで欲しいと思うのはその通りだと思います。でも、そういうことは考えてはダメです。実際、ジンやウオッカをストレートで楽しむ人口がどれほどいるかというと、そんなに多くないですよね。

まずはカクテルにして飲んで、おいしいと言ってもらえる方が良く、個別銘柄や味はその次のステップです。たくさんの方に焼酎カクテルを楽しんでもらい、『おいしいね』とポジティブな状態を作り、そこから『これって何を使っているの?』『少しちょうだい』とか、『これでマティーニを作って』というような状態になってくると、やっと個別銘柄の味にフォーカスするようになります。最初はカクテルから入り、そこから個別銘柄を味わう状態になるのは、焼酎に限らず、どのお酒もはやらせる時の流れとしては同じです」

Death&Coで行われたイベント初日は、260以上の焼酎ドリンクが提供される大反響でした
Death&Coで行われたイベント初日は、260以上の焼酎ドリンクが提供される大反響でした

-カクテルは新鮮でユニークなものが多く、大人気でした

「私のカクテルは種類がたくさんありますが、素材を大事にしています。何味かよく分からないと飲んでいる人の記憶に残りませんから、素材の味がきちんと理解できる状態が理想です。記憶に残るカクテルを作るには、味のレイヤーを3つまでにするのが大事で、例えばイチゴとポルチーニのカクテルを今回提供しましたが、きちんとそれぞれの味がします。2つの味それぞれが、違和感なく順番にくるように計算しています。わさびと洋ナシのカクテルでは、先に洋ナシの味がきて、その何秒後でワサビの辛味がくるという風に、自分がイメージした順番で味が感じられるよう配合で調整しています」

ポルチーニとイチゴのカクテルを楽しむゲスト(JFOODO提供)
ポルチーニとイチゴのカクテルを楽しむゲスト(JFOODO提供)

-焼酎は麦や米、芋など複雑で理解が難しいという声もあります

「焼酎は何味か、説明するのは難しいですよね。アメリカ人にスイートポテト(芋)といっても、甘いの? みたいな感じになってしまいます。相手が分かる言葉でないと想像がつかないので、飲んでみようと思わない。例えば自分たちが未知なるアジアや南米の料理を食べる時に、聞いても何味か分からないと怖くて食べられないのと同じです。言語の問題になってきますが、共通言語、伝えられる言葉がないと理解が難しく、良さが伝わらないということはあります。

その点では、ライチのフレーバーなど、言葉で伝えられる銘柄の方がイメージができる分、注文しやすいと思います。味が想像できなければ、恐る恐る飲むカクテルにお金を払うより、知っているものを飲む方が良いとなりますから、まずは分かりやすい香りやフレーバーのものが初心者には受け入れられやすいと思います。その後で、もっと癖のあるものや個性的なものに触れていく流れになるのかなと。

シンガポールなどアジアではセミナーなどもやっていますが、アメリカは今回初めてでした。機会があればこれからもこちらで焼酎カクテルを広める活動をしていきたいと思っています」

(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」)