水原氏の違法スポーツ賭博スキャンダルを報じた21日付のロサンゼルス・タイムズ紙。22日に1面で引き続き報道
水原氏の違法スポーツ賭博スキャンダルを報じた21日付のロサンゼルス・タイムズ紙。22日に1面で引き続き報道

ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平投手の通訳だった水原一平氏の違法スポーツ賭博スキャンダルが世間を騒がせていますが、スポーツ賭博とはどのようなものなのか、関心が寄せられていることと思います。日本で報じられている通り、ドジャースやエンゼルスの本拠地があるここカリフォルニア州では違法ですが、賭けが認められている州もあります。全米では38州と首都ワシントンDCでは合法で、カリフォルニアを含む残る12州は違法です。

22日の紙面でも続報を伝えています
22日の紙面でも続報を伝えています

今回、「ギャンブルスキャンダル」とアメリカのメディアもセンセーショナルに報じている背景には、違法賭博で連邦捜査局(FBI)の調査対象となっている元締めからツケ払い方式でスポーツ賭博をしていたということがあります。本人は「カリフォルニアで違法だとは知らなかった」と話しているようですが、まずは違法と合法の違いは? という疑問について説明します。

ギャンブルというとラスベガスを思い浮かべる方も多いと思いますが、ラスベガスのあるネバダ州ではもちろんスポーツ賭博は合法で、カジノの一角には世界中のさまざまなスポーツ中継を映すテレビ画面が並ぶ「スポーツブック」と呼ばれる賭博エリアがあります。ここではメジャーリーグやNBAなど4大プロスポーツはもちろん、テニスやボクシング、サッカー、ゴルフから競馬にカーレースまでありとあらゆるスポーツに賭けることができます。そのため、NFL王者決定戦スーパーボウルのような大きな大会がある日は、世界中から賭けを目的に大勢の人がラスベガスに集まり、街全体が大賑わいとなります。

ここではカウンター越しに対面で掛け金を支払ってチケットを受け取るシステムですが、近年はカジノ内に設置された端末を使って賭けることもできるようになっています。話はそれましたが、アメリカでは5年ほど前まではネバダ州を除いて全米でスポーツ賭博が禁じられていました。しかし、2018年に連邦最高裁判所が各州にその判断を委ねる判決を下したことで、税収を目的に合法化の動きが一気に加速しました。

そこにコロナ禍がやってきて、オンラインやスマホアプリを介したスポーツ賭博が人気となり、2026年までに200億ドルを突破する一大産業になると言われています。世論調査によると、今やアメリカ人の5人に1人が過去1年間にカジノまたはオンラインアプリ、賭博施設を介してスポーツに賭けたことがあると言われるほど、一般に広がっています。

合法州においても、オンライン賭博を禁じている州もあれば、年齢も21歳ではなく18歳以上と規定している州も一部であるなど州ごとに法律が異なり、複雑です。全面的に違法なのは、カリフォルニアの他はテキサスやジョージア、ユタ、アイダホ、ハワイ、アラスカなどで、これらの州内から合法州のサイトにアクセスしてもGPS機能によってはじかれるか、支払いの段階になってクレジットカードの住所で決済が却下されることがほとんどです。すなわち、オンラインであっても、違法の州からは賭けられないシステムになっています。

また、オンライン賭博の場合は、州が許可したプラットフォームで賭けを行わなければならず、その胴元は物理的にその州または管轄区域内に住所がある必要があります。ただし、賭ける側は必ずしもその州の居住者である必要はなく、違法州に住む人が合法州に行ってスポーツ賭博すること自体はなんの問題もありません。ですから、もし水原氏が合法州に出向いて賭けを行っていれば、このようなスキャンダルには発展しなかった(窃盗容疑は別として)と思います。ツケ払いと伝えられていますが、その理由はまさにカリフォルニア州内からだとクレジットカード決済ができないということがあるわけです。

では、なぜカリフォルニア州では違法なのかというと、独自のギャンブルに関する法律が関係しています。カリフォルニア州ではカジノは違法とされていますが、過去の歴史で迫害されてきたネイティブアメリカンの保護と経済的支援を理由にアメリカ先住民居留地でのみカジノの運営が特例で認められています。インディアン・カジノと呼ばれる合法カジノが州内に70カ所以上あり、部族はその収益で学校や病院を作ったり、道路などインフラを整備したり、雇用を生み出したりしており、ギャンブルに関して強い影響力を持っています。

2022年11月に合法化するかどうか住民投票が行われましたが、当然オンラインスポーツ賭博が新たに入ってくれば顧客を奪われることになるため、ほぼすべての部族が反対し、合法化への道が開かれることはありませんでした。加えてギャンブル依存症への懸念などもあり、8割の住民が反対したと伝えられています。

今年2月にラスベガスで行われたスーパーボウルでは、15億ドルが賭けられたと推測されていることからも、いかにスポーツ賭博が人気なのかが分かります。ラッパーのドレイクも、カンザスシティ・チーフスに日本円にして2億円近い賭けをしたと言われています。また、現在行われているマーチ・マッドネスと呼ばれる大注目の大学バスケットの全米王者を決める大会でも、27億ドル以上が全米で賭けられると予想されています。

わずか5年ほどの間にアメリカで急速に広がったスポーツ賭博は、利用者が増え続ける一方でギャンブル依存症などの問題も取りざたされています。当然、水原氏のように違法賭博に関わってしまう人も増えており、実態解明が進むことを求める声も出ています。(米ロサンゼルスから千歳香奈子。ニッカンスポーツ・コム「ラララ西海岸」、写真も)