和歌山県の紀勢本線JR御坊駅から御坊市の中心街へ向かう紀州鉄道。その距離わずか2・7キロで、私的には実質的に「日本で一番短い鉄道」だと思っている。和歌山の鉄道会社にもかかわらず本社は東京。さらに言うと消費税増税でも値上げはなし。魅力いっぱいのローカル鉄道に3度目の乗車となったが、例によってわずかな距離が書き切れず前編をお届けします。最後にはプレゼントもあります。(文中の写真には今回撮影したものでないものも含まれています)

〈1〉御坊で出発を待つ紀州鉄道の車両
〈1〉御坊で出発を待つ紀州鉄道の車両
〈2〉車内の紀州鉄道の料金表。最長で180円だ
〈2〉車内の紀州鉄道の料金表。最長で180円だ

すべての特急が停車し、始発電車も数多く存在する御坊は紀勢本線において運行上の重要駅である。JRは1~3番乗り場。1番乗り場の横に存在する切り欠き0番線が紀州鉄道乗り場。1両単行のディーゼル車が待っている(写真1)。ここから旅のスタートである。旅とは言っても8分で終わってしまうが、連続で書いてきた支線シリーズとは違う。わずか2・7キロの「本線」なのだ。

昨年8月1日の記事でも書いたが、旧国鉄の駅は町の中心地から離れていることが多い。御坊も例に漏れず、駅と中心部を結ぶため、昭和初期に敷設された。当時は御坊臨港鉄道という名前。だが戦後になると、モータリゼーションの波や貨物事業の減少もあって業績は下降。1972年に東京の不動産会社に譲渡されることとなった。

ん? 東京? そう思われる方がいるかもしれないが、紀州鉄道の本社所在地は東京都中央区日本橋。東京のど真ん中だ。不動産業の経営に鉄道会社の名前が信頼されると考えられたとされる。確かに鉄道会社の系列となる不動産会社は多い。今、紀州鉄道はリゾートクラブやホテルを幅広く経営しており、鉄道事業は会社の一部となっている。

では適当に鉄道事業を営んでいるかというと、そうではない。旅を続けよう。車内に入ってまず目につくのは料金表である。うーん、安い! 度重なる消費税増税にも値上げはなし(写真2)。独立した地方ローカル線とあって経営的には赤字である。それでも料金据え置きなのは地元に対する還元という役割を担っているからだろう。もちろん工夫や企業努力も見られる。

〈3〉紀伊鉄道の中心駅、紀伊御坊
〈3〉紀伊鉄道の中心駅、紀伊御坊
〈4〉紀伊御坊の駅名標
〈4〉紀伊御坊の駅名標
〈5〉紀伊御坊の側線は車両の留置線となっている
〈5〉紀伊御坊の側線は車両の留置線となっている

紀伊御坊で下車した。唯一、終日駅員さんがいる駅で御坊市の中心街に最も近く、紀州鉄道の中心駅。立派なコンクリート駅舎を備える(写真3~5)。各種グッズはこちらで販売。切符鉄の方は硬券を購入することもできる。イベント列車の運行や食品会社とのコラボとも積極的である。会社の歴史もあくまで御坊臨海鉄道を出発としており、設立は1928年だ。

ここからは徒歩で終点の西御坊を目指す。徒歩といっても約1キロなので散歩レベル。昨年10月31日に「『日本一短い』芝山鉄道線」という記事を書いた。芝山鉄道線は2・2キロ。わずか1駅の路線で確かに第一種鉄道事業者としては最も短い。ただ当該記事のメモでも書いたが芝山鉄道は京成に乗り入れていて都内への直通列車もある。紀州鉄道は単独路線。法律的には芝山鉄道が1位だが、実質的には紀州鉄道が日本一だともいえる。

〈6〉市役所前駅からは終点の西御坊駅が見えている
〈6〉市役所前駅からは終点の西御坊駅が見えている
〈7〉西御坊の駅舎
〈7〉西御坊の駅舎
〈8〉西御坊駅の改札
〈8〉西御坊駅の改札
〈9〉日本一短いローカル私鉄と表示されていた
〈9〉日本一短いローカル私鉄と表示されていた

市役所前まで行くと、終点は目の前である。本当に目の前で見えている(笑い)。300メートルしかないので当然か(写真6)。この西御坊駅も見どころ十分。いや、見ごたえ十分というべきか。渋い木造駅舎があり、かつての改札跡もあるが、今は無人駅だ(写真7~9)。

私は終着駅が好きである。JR、私鉄を問わず日本中の終着駅を見て回っているといっても過言ではない。支線が好きなのもそれが理由のひとつ。そのため各地の終着駅はかなり知っている方だが、西御坊には驚かされる。外に回れば分かるが、突然の終点というのはこのことだろう。しかもギリギリ。何回見ても運転士さんの技術も含め感嘆するばかりだ(写真10~11)。

これで2・7キロの旅は終わりである。ただ、まだまだ終わりではない。ここからまた楽しめるのが紀州鉄道の魅力なのだ。【高木茂久】

〈10〉突然の終点となる西御坊駅
〈10〉突然の終点となる西御坊駅
〈11〉まさにギリギリの停車。しびれます
〈11〉まさにギリギリの停車。しびれます

◆プレゼント 島根県を拠点とするローカルジャーナリスト田中輝美さんが著した「すごいぞ! 関西ローカル鉄道物語」(写真)を読者3人にプレゼントします。紀州鉄道のほか、北条鉄道、近江鉄道、阪堺電車など関西のローカル私鉄11社の歴史と鉄路、沿線の魅力をカラー写真入りでたっぷり紹介しています。希望者ははがきに郵便番号、住所、氏名、年齢、電話番号を明記の上、〒530・8334(住所不要)日刊スポーツ報道部「ローカル鉄道物語」係まで。26日必着。当選者の発表は発送にかえます。