5月28日の記事で「駅跡にも2度と行けない」旧川原湯温泉について記したが、今回も2度と行けない駅である。青函トンネルの中にあった「竜飛海底駅」。北海道新幹線開業に伴い6年前に廃駅となったこの駅は事前に予約しないと下車できない体験観光の駅だった。周辺は竜飛崎の観光コース。駅としての機能はなくなったが、周辺の観光や体験は、もちろん今も現役である。(訪問は2011年6月)

 
 

停車アナウンスがあると所定号車のデッキに赴かなければならない。開くドアはひとつだけ。特急「スーパー白鳥」が竜飛海底駅のホームに滑り込む。ひとつだけのドアを開けるのは非常用のコック。旅客列車では通常時まず見られない光景である。案内係の方がホームで待っている。ここは青森県だが青函トンネルの海峡線はJR北海道なので案内も同社の方だ。とても暗く、とても狭いホーム(写真1~3)。下車したわれわれに向けてというか、おそらく駅名標方向だろう。車内からパシャパシャとシャッターが。案内の方に先導されて歩き始める。

〈1〉竜飛海底駅の駅名標。吉岡海底駅は定期列車は停車しなくなっていたが駅としては存在していた。津軽今別は現在の奥津軽いまべつ
〈1〉竜飛海底駅の駅名標。吉岡海底駅は定期列車は停車しなくなっていたが駅としては存在していた。津軽今別は現在の奥津軽いまべつ
〈2〉プラットホームは狭かった
〈2〉プラットホームは狭かった
〈3〉ケーブルカーの駅へと進んでいく
〈3〉ケーブルカーの駅へと進んでいく

海峡線(青函トンネル)は昭和のほぼ最後に開業した。ちなみにこの1988年は3月に青函トンネルを4月に瀬戸大橋を、それぞれ列車が走るという、今思えば鉄道にとってもエポックな2カ月だった。世相はというと、バブル景気に一直線のころだ。

トンネルの中に設けられた駅が、青森側に当駅そして北海道側に吉岡海底駅の2つ。後者は06年に新幹線建設の資材置き場となったため、定期列車の停車が終わり、竜飛海底駅も訪問2年後には新幹線工事のため旅客駅としての役割は終えた。旅客駅といっても普通の駅とは異なり、事前に見学整理券を購入しないと下車できず時刻表にもその旨が書かれていた(写真4)。もともとは保守用の施設。ホームの狭さや暗さに接すると事前に人数を制限、把握しないといけなかったことは容易に分かる。なお冬季は見学コースがなくなるため、停車列車もなくなる季節限定の駅でもあった。

〈4〉見学整理券がないと下車できない駅だった。停車が少ないため列車の時刻も指定されていた
〈4〉見学整理券がないと下車できない駅だった。停車が少ないため列車の時刻も指定されていた
〈5〉体験坑道駅からケーブルカーに乗り込む
〈5〉体験坑道駅からケーブルカーに乗り込む

青函トンネルの概要や歴史を伝えるパネルを見ながら進むとケーブルカーの駅に着く。「青函トンネル竜飛斜坑線」という路線名と「体験坑道駅」が言い得て妙すぎる(写真5)。工事従事者や資材を運ぶためのケーブルカーで非常時には脱出にも利用されるが「青函トンネル記念館駅」とを結び、一般にも開放された(写真6、7)。

〈6〉青函トンネル記念館駅の駅名標
〈6〉青函トンネル記念館駅の駅名標
〈7〉ケーブルカーのもぐら号
〈7〉ケーブルカーのもぐら号

見学コースは外出も許可されていた。ただし次に乗る列車も決まっているため、その時間までに戻らなければならない。時間的余裕も考慮すると2時間弱ぐらい。係の方に尋ねると階段国道の上ぐらいで下まで降りるのはギリギリすぎておすすめできないという。「以前はもう少し時間も長くて余裕があったのですがね」。

手元に06年の時刻表がある。竜飛海底着は12時45分で発は16時18分。訪問時の数年前のことで残念だが、当時はそんなことを考えることもなく歩き始める。そして階段国道に到着。国道339号の一部区間が階段となっていて、もちろん徒歩でしか通行できない(写真8、9)。メディアで頻繁に登場する名所。うーん、降りたい。362段。先週(6月4日)の土合駅を考えると10分あれば十分完走できそうだが、土合駅と違って、こちらは往復が必要で帰りが上りというのは、どうだろう。念には念をで、美しい景色だけで自重することにした(写真10)。

〈8〉名所である階段国道に到着
〈8〉名所である階段国道に到着
〈9〉ここから362段の階段を下りる
〈9〉ここから362段の階段を下りる
〈10〉美しい景色を味わえる
〈10〉美しい景色を味わえる

石川さゆりさんの「津軽海峡冬景色」の碑がある(写真11)。そういえば「竜飛」という言葉を初めて耳にしたのは、この歌だった。ボタンを押すと歌が聞けるという。もちろん押してみた。すると…あれ? なんか数え切れないほど聞いた歌とは何か違う、と思ったら2番だったのだ。確かに、あの印象深い「ごらんあれは…」は2番の冒頭。碑を見ると2番が強調される形になっていた。妙に感心してしまった。

〈11〉津軽海峡冬景色の碑は2番が強調されている
〈11〉津軽海峡冬景色の碑は2番が強調されている
〈12〉乗降できるドアはひとつだけだった
〈12〉乗降できるドアはひとつだけだった

現在、駅は「竜飛定点」という施設となり、本来の役割のみを務めている(写真12)。非常口としての機能は残っているが、それはあってはならないことであり下車はできない。ただケーブルカーについては今も冬季を除いて乗車が可能。昨夏、北海道新幹線の奥津軽いまべつと津軽線の三厩を訪ねた。バスで階段国道の上下と記念館に行くコースを知った。津軽鉄道とも組み合わせると楽しい旅ができそうだ。残念ながら青函トンネル記念館は、6月いっぱいまで休館中(9日時点)とのことだが、いつかは階段国道を上り下りして2つの旅をひとつにつなげたいと思っている。【高木茂久】