因美線の南側(智頭~東津山)は優等列車もなく、駅によっては1日6往復という閑散路線だが、魅力的な駅舎が多いのが特徴で「駅派」としては、ぜひ多くの駅を見たいし、見てもらいたいローカル線である。ただ本数の少なさゆえ、駅回りには困難を伴うのも事実。そこでひねり出したのは「日曜祝日はできない駅回り作戦」。猛烈な暑さが残っていた8月29日。最後の青春18きっぷを握りしめて作戦実行となった。

 
 

この日は津山駅からのスタート。因美線の終点は東津山だが、すべての列車が姫新線の津山まで乗り入れるので事実上、津山が起終点となる(写真1)。

〈1〉因美線の事実上の起終点駅となる津山駅
〈1〉因美線の事実上の起終点駅となる津山駅

智頭で運行が完全に分断される因美線は特急がバンバン走る北側に比べ、南側は優等列車はなく本数も少ない。津山発の智頭方面行きは1日10本あるが、うち3本が5時台に2本、6時台に1本。前日入りしなければ間に合わないので日帰りの今日は無理。ということで6時47分発の次はと時刻表を見ると11時35分! 約5時間がない。午前中はほぼ何もないのだ。

そこで考えたのがバス。先週、因美線の北側でも1区間利用した。岡山県側となる津山市内にも本数は多くはないが、多くの路線があるようだ。だったら利用しない手はないと、実は1週前の土曜、鳥取に宿泊した際、調べたのだが、驚きの事実が判明。日曜祝日運休という路線が多いのだ。もちろん断念。土曜のこの日、あらためてチャレンジとなった。

平素の私は絶対に行きたいところだけを2、3駅(1駅の場合もある)決めて後は時刻表を見ながら降りたい駅で降りる。そのうち「早くビール飲みたいなぁ」となってヘタするとお昼過ぎに撤退してしまうこともしばしばだが、今回だけは入念にバスと列車の時間を調べた。久しぶりのガチ旅である。

〈2〉因美線の旅はバスで出発
〈2〉因美線の旅はバスで出発
〈3〉高野駅前のバス停で降りる
〈3〉高野駅前のバス停で降りる
〈4〉赤い屋根が特徴的な高野駅
〈4〉赤い屋根が特徴的な高野駅
〈5〉高野にやって来た智頭行き。向かいのホームとレールは使用されていない
〈5〉高野にやって来た智頭行き。向かいのホームとレールは使用されていない

この区間の訪問は3回目だが過去の経験から昼食は、はなからあきらめている。津山駅近辺でモーニングを取り、コンビニでおにぎりや食料(※)を購入し10時半ごろのバスで出発(写真2)。バスは東津山も通るが、最後に乗換でお世話になるので高野まで行く。というか降りていては因美線を回れない。例によって「駅前」のバス停からやや距離があるが分かりやすい(写真3)。昭和初期の木造駅舎。使用されなくなったホームにはレールと駅名標が残っている(写真4、5)。

〈6〉因美線の鳥取側の南端となる那岐駅
〈6〉因美線の鳥取側の南端となる那岐駅

ここで11時35分津山発の列車を捕まえ一気に県境越え。優等列車は走らないので青春18きっぷならではの路線だ。明らかな同業者(鉄道ファン)が多く乗っている。険しい県境はバスもなく、もちろん徒歩も不可能なので列車は重要。那岐へと向かう。ダイヤ上、もうひとつ先の土師と二択になったが、那岐を選択したのは県境駅で折り返し設定もある信号も備えた「駅」だからだ(写真6)。

〈7〉今も残る木製の改札口から階段を上るとホーム
〈7〉今も残る木製の改札口から階段を上るとホーム
〈8〉因美線全通時の新聞が張られていた
〈8〉因美線全通時の新聞が張られていた
〈9〉以前の駅名標が今も使用されている
〈9〉以前の駅名標が今も使用されている

階段を下り駅舎に向かうスタイルで、駅舎は駅と因美線の歴史を伝える記念館にもなっている(写真7~9)。診療所にもなっているようで、月に2回の診療が行われる。因幡社の理髪店といい、駅舎を守る素晴らしいアイデアだと思う。乗車した列車は智頭で折り返してくるので那岐では約40分の滞在。駅近辺をウロウロするにはちょうど良い時間。今度は美作滝尾まで。バスの時間などを検討した結果、今回も両端から順番に回ることにした。

〈10〉登録有形文化財となっている美作滝尾駅
〈10〉登録有形文化財となっている美作滝尾駅

美作滝尾は鉄道ファンならずとも映画ファンにも有名な駅。寅さんシリーズの事実上、最終話となった「男はつらいよ 寅次郎紅の花」のロケ地だ。阪神淡路大震災の1995年に撮影されたこの作品は被災地もロケ地となっており、神戸市民の私も正直涙してしまった。渥美清さんは病をおして出演したという(写真10)。

〈11〉駅舎内は当時のものがそのまま残されている
〈11〉駅舎内は当時のものがそのまま残されている
〈12〉貨物線跡も残されている
〈12〉貨物線跡も残されている
〈13〉映画のロケ時の写真が掲げられている
〈13〉映画のロケ時の写真が掲げられている
〈14〉「男はつらいよ」のロケ記念碑
〈14〉「男はつらいよ」のロケ記念碑
〈15〉美作滝尾を去っていく列車
〈15〉美作滝尾を去っていく列車

駅舎は登録有形文化財で、かつては貨物利用もあった跡や駅の事務室、切符売り場などがそのまま保存されている(写真11~15)。荷物の発送や一時預かり。その昔、駅には基本的に駅員さんがいるもので、列車に乗らずとも人々が憩いの場とするところだった。駅は地域の皆さんとともにあったのだ。7年ぶりの訪問で、かなり幸せな気分になった。ただここから状況が変化することになる。【高木茂久】

(※)夏場の旅でオススメの食料は、いわゆる「酒のつまみ」。ナッツなどのほか、特によいのは真空パックのちくわやソーセージ。炎天下では食料が傷むことも考えられるが、その心配が少ない。食べなかった場合も自宅に持ち帰れば、いつでも食べられる。