姫路~佐用、佐用~津山を紹介してきた姫新(きしん)線。残る津山~新見間である。150キロ以上にも及ぶ姫新線は、運行も3区間に分かれているが、今回の区間が約70キロと最も長い。すべて岡山県内だが、県境のような山間や谷間も走るため、よりローカル線色が強くなる。旅の友はもちろん青春18きっぷ。ただし距離が長いことと本数の少なさから1泊2日の旅程である。(訪問は3月20日)

〈1〉6時過ぎの始発で姫路へと向かう
〈1〉6時過ぎの始発で姫路へと向かう

山陽新幹線の下り始発で姫路に向かった。時刻は6時過ぎ。18きっぷ利用なのに、なぜ新幹線かというと姫路発6時55分の姫新線に乗れないから(写真1)。幸いなことに乗車券込み1500円という近トクきっぷの発売期間だった(その後4月からの延期が決まった)。姫路からは18きっぷの出番で新宮播磨、佐用と乗り換え(乗り継ぎが便利なダイヤとなっている)津山着9時31分。

〈2〉国鉄時代から残るとみられるバス案内
〈2〉国鉄時代から残るとみられるバス案内
〈3〉番線案内の数字も独特さを感じる
〈3〉番線案内の数字も独特さを感じる

18きっぷの季節も、この時間だと確実に座れるという自信があったコースだったが新幹線に乗ってから3時間以上が経過して、ようやくスタート地点だ。その津山駅。津山藩の城下町で岡山県第3の都市は交通の要衝でもある。今も残る扇形車庫を利用して「津山まなびの鉄道館」にもなっている。駅構内も国鉄時代の文字が多く残っていて興味深い。「ハイウェイ」に続くのは「・」ではなく「ー」だろうか。どうなんだろう? などと考えていると、列車の出発時間となった(写真2、3)。

津山~新見の間には湯原温泉の最寄りで観光拠点でもある中国勝山があり、1日11往復(休日ダイヤ)のうち5本が津山~中国勝山のみの運行。つまり中国勝山を越え新見に向かう列車は1日6往復(早朝に1往復の中国勝山~新見があり実際は7往復)だ。11本でも多いとは言えないが、6本は因美線の岡山側と同じ閑散区間。真っ暗では駅を訪れる意味がないので実際は4、5本ということになる。これは1日ではとても無理、ということで2日がかりの「攻略」となった。

〈4〉かつて三江線で活躍した車両が姫新線を走っていた
〈4〉かつて三江線で活躍した車両が姫新線を走っていた
〈5〉美作落合の駅舎
〈5〉美作落合の駅舎
〈6〉かつての2面3線ホームは1線が消されている
〈6〉かつての2面3線ホームは1線が消されている

廃線となった三江線で活躍していた浜田色に心を躍らせながら最初に訪れたのは美作落合(写真4)。前述した通り、ダイヤが薄いので行ったり来たりを繰り返しながらになるが、おそらくどこかは徒歩になる。ただし、このあたりはやめておく。各地にある「追分」「落合」だが、地名から想像できるように経験上あまり徒歩に適した地形はない。かつての急行停車駅で、2面3線だったホームに名残を感じる。真新しい駅舎は簡易委託駅。時間帯によって発見作業を行う(写真5、6)。

〈7〉バス停のような坪井駅の待合所
〈7〉バス停のような坪井駅の待合所

折り返して坪井へ。バス停のような待合室が残るだけの駅だが、私はこういう駅舎は嫌いではない(写真7)。姫新線の多くの駅で撤去されている列車交換(すれ違い)設備も残る。いよいよここから徒歩だ。今回の旅で絶対に訪れると決めていた美作千代(せんだい)。国道がほぼ並行しており一本道で、おそらくほぼ平たん。津山~新見の中では駅間も最も短く3キロない。乗車予定の列車は1時間40分後で、うまくいけばお昼も…と歩き始めると駅には順調にたどり着けたが、食事にはありつけなかった。ただ旧久米町役場近くということもあってかコンビニがあったので大いに助かる。

〈8〉古い木造駅舎が残る美作千代駅
〈8〉古い木造駅舎が残る美作千代駅
〈9〉構内の窓口は閉鎖され無人駅となっている
〈9〉構内の窓口は閉鎖され無人駅となっている
〈10〉駅舎に掲げられた駅名には美作の文字はない
〈10〉駅舎に掲げられた駅名には美作の文字はない

その駅舎は大正期の姿をそのまま残す木造瓦ぶきは因美線の各駅に類する実に素晴らしいもので、初めて訪れた私は大いに感動した。駅舎内には戦前の写真も展示されているのでぜひ訪れてほしい(写真8~10)。

〈11〉瓦ぶきの駅舎が残る久世駅
〈11〉瓦ぶきの駅舎が残る久世駅
〈12〉久世駅に到着したキハ120
〈12〉久世駅に到着したキハ120
〈13〉院庄駅はかつての事務室部分が削られ待合室だけが残る
〈13〉院庄駅はかつての事務室部分が削られ待合室だけが残る

その後は、こちらも古い駅舎が残る久世に向かい、再び院庄(こちらは縮小されたユニークな駅舎となっている)まで戻って、また中国勝山まで折り返したところで初日の行程は終了(写真11~13)。観光拠点らしく立派な駅である。7年前にも来たことがあり「相変わらずホームには、ひらがなが残っているなぁ」と写真を撮りつつ何げに裏手に回ってみると、何ですか、これは! 五七調の標語だ。ツイッターにアップすると大きな反響をいただいた。全国各地で「世界の友が乗る」と言われていた可能性がある。外国からの観光客が少ないころに書かれた、おもてなしの気持ちだろう(写真14~17)。

〈14〉中国勝山は観光の入り口らしく立派な駅舎
〈14〉中国勝山は観光の入り口らしく立派な駅舎
〈15〉中国勝山の改札。発券はするが改札はしないようだ
〈15〉中国勝山の改札。発券はするが改札はしないようだ
〈16〉乗り場表示がひらがな。裏に回ってビックリ
〈16〉乗り場表示がひらがな。裏に回ってビックリ
〈17〉この標語はいつからのものだろうか
〈17〉この標語はいつからのものだろうか

現在、湯原温泉へのアクセスは岡山駅からのバスが推奨されているようだ。ただしバスは直行ではない。中国勝山駅で約30分先の湯原温泉行きに乗り換える。つまり駅はバスの乗り継ぎ地点という位置づけだ。確かに岡山からバスで2時間弱。列車だと津山線の快速に1時間10分揺られた後、津山で乗り換えて50分。乗車時間はほぼ同じだが、ここに乗り換えの時間が加わる。さらに久世駅も通る岡山からのバスは中国勝山でうまく湯原温泉行きに乗り継げるようにダイヤが考慮されている。利便性だと確かに軍配はバスに上がる。

それでも駅のホームに立たないと、このおしゃれな標語に出合うことはできない。本来は「美作勝山」となるところが中国勝山となったという。広い中国地方で先頭に「中国」が付くのは、ここだけ。せっかくの旅である。目的地への途中経過も楽しみたい。【高木茂久】