「走るジオパーク」。大糸北線はこのように呼ばれる。白馬あたりから、ほぼ姫川に沿って線路が続く大糸線。トンネルや橋が多い非電化区間をトコトコ走る車窓からの渓谷美は絶景のジオ(地球)パーク(公園)である。とはいえ、そんな地形を走るだけに、列車がない時間は簡単に駅間徒歩というわけにはいかず、貴重なバスのお世話にもなった。(訪問は9月17、18日)

今回の訪問は金・土曜日。週明けの月曜日も敬老の日で、カレンダーでは土曜から3連休だったが、あえて金曜に休みをとったのには理由がある。中土駅は大糸北線の「起点」である南小谷まで、あと1駅のところにあるが、次の南小谷行きは2時間後。それを待っていては最終的に本日の目的地に到達できない。そこで利用するのが小谷村村営バス。その中の「北小谷線」というのが南小谷駅から中土駅、北小谷駅、平岡駅を1日6往復結んでくれる私にとって大変便利で大変貴重な交通機関。(写真1)

〈1〉中土駅からはバスに乗り換え
〈1〉中土駅からはバスに乗り換え

だがひとつ問題があって、北小谷線は土日祝日は運休なのだ。地方のバスの週末運休は各地で遭遇したパターンだが、険しい地形が多く駅間も長い沿線なのでバスがないと駅巡りはできない。それゆえ金曜の旅立ちとなった。やって来たバスはかわいいワゴン車である。(写真2、3)

〈2〉中土駅のバス停
〈2〉中土駅のバス停
〈3〉小谷村村営バスはワゴン車タイプだった
〈3〉小谷村村営バスはワゴン車タイプだった

約10分で南小谷駅へ到着。言い忘れていたが小谷と書いて「おたり」と読む。JR西日本とJR東日本の境界駅。ここからが大糸南線となる。小谷村の中心駅で管理駅。当然、駅員さんがいる。みどりの窓口もある。JR東日本が駅を管轄しており、駅名標などはすべて東日本仕様。ホームには長大編成の特急「あずさ」が停車中。1日1往復、新宿からやって来る。小谷は特急が停車する貴重な「村」となっているが、架線の存在も含め、トコトコ揺られて非電化の大糸北線をやって来ると新鮮に感じる。(写真4~6)

〈4〉JR東日本と西日本の境界駅である南小谷駅
〈4〉JR東日本と西日本の境界駅である南小谷駅
〈5〉南小谷駅はJR東日本の管轄なので駅名標は東日本仕様
〈5〉南小谷駅はJR東日本の管轄なので駅名標は東日本仕様
〈6〉別バージョンの駅名標
〈6〉別バージョンの駅名標

2面3線のホームにはリゾートビューふるさとも停車していた。平日だったが運行日だったのだろうか。そして、もうひとつのホームに、ちょこんとキハ120。もちろん1両編成(単行)である。私が中土まで乗ってきた車両と思われる。私が乗るのは当然このすてきな単行。折り返して一気に小滝駅へと向かう。(写真7、8)

〈7〉南小谷から南側は電化区間。特急「あずさ」とリゾートビューふるさとが停車していた
〈7〉南小谷から南側は電化区間。特急「あずさ」とリゾートビューふるさとが停車していた
〈8〉私が乗車するのはJR西日本のキハ120
〈8〉私が乗車するのはJR西日本のキハ120

小滝は再び新潟県となるが、今回の駅巡りで最も重要視した駅。なぜかというと、ここだけ年間を通じての定期路線バスの乗り入れがないのだ。加えて糸魚川から延伸してきた工事が戦前、ここで終わり、戦争をはさんで約20年間、終着駅だったという事実。これはかなり山深い場所に違いない、と降り立つと予想通り山中の川沿いにたたずむ駅だった。(写真9~12)

〈9〉戦前から戦後にかけては終着駅だった小滝
〈9〉戦前から戦後にかけては終着駅だった小滝
〈10〉給水塔の跡だろうか
〈10〉給水塔の跡だろうか
〈11〉小滝駅前の案内板
〈11〉小滝駅前の案内板
〈12〉小滝駅の駅名板は木製
〈12〉小滝駅の駅名板は木製

地図で見ると少し歩いたところに郵便局があって小滝の集落があるようだが、駅前には何もない。発電所が見えるのみ。1935年からの駅舎は雪国ならではのトタン屋根。かつてはホームが2面あったようだが、今は1面のみ使用。ホームの向こうはすぐ川だが、その手前に見える残骸は、かつての終着駅らしく給水塔だろうか。ここまで蒸気機関車で来るのは大変だっただろう。駅前の案内を見ると小滝川ヒスイ峡の最寄りのようだ。糸魚川といえばヒスイが代名詞である。発電所の工事中だったようで関係者の方が多くいて、ひっそり感は味わえなかったが、駅付近の様子を味わうと再び南下する車窓が異なって見える。走るジオパークとは言い得て妙で、姫川沿いの景観は美しい上、そこをゆっくりと走るため、じっくりと車窓を堪能することができる。(写真13)

〈13〉車窓にはずっと姫川の渓谷が映る
〈13〉車窓にはずっと姫川の渓谷が映る

再び長野県に入り、今日最後の駅となる北小谷に到着。こちらは1957年に小滝~中土が開業して大糸線が全通した際に設けられた。戦後の工事らしく、前後にトンネルがいくつも続く。駅前からは何もないように見えるが徒歩10分ほどのところに道の駅がある。そして小滝とは異なり、姫川はホームと近い高さで目の前を流れていく。訪問は9月中旬だったが、秋の来訪を告げるようにススキがなびいていた。当駅では約30分の滞在。これもまた先ほど乗っていた折り返しだろうが、本日はここまで。宿へ向かうことにしよう。【高木茂久】(写真14~17)

〈14〉北小谷の駅舎
〈14〉北小谷の駅舎
〈15〉北小谷のホームと駅舎
〈15〉北小谷のホームと駅舎
〈16〉北小谷の駅名標
〈16〉北小谷の駅名標
〈17〉北小谷はホームと川が近い
〈17〉北小谷はホームと川が近い