奄美2日目。私は「その土地の景色」を見たくて旅をする。そもそも酒が体質に合わないので、名産の酒で長い夜を…なんてことは一切なく、ひとり旅の時は徹底して早寝早起きである。寝る時間があるなら、1カットでも多くの景色を目に焼き付けたい。


出発。島の南へ向かう。人の営みは想像より早く、名瀬は朝から渋滞だ。ようやく街を抜けると、長いトンネルに入る。かなり長い。このトンネルが完成する前は、険しい峠を越えていたのだろう。沖縄本島へ飛行機で向かうと、着陸の数十分前に奄美大島の上空を通る。空から眺めると一目瞭然な、海岸線の複雑さ。移動の大変さは何となく予感していたが、奄美の道路網は全国的にみてもかなり高水準だった。


最初の目的地に着いた。奄美市住用町にある、マングローブ原生林である。国内では沖縄・西表島に匹敵するという規模というマングローブの森だ。国道沿いに駐車スペースがあるので、とりあえず停める。車から降りるときでさえ、足元にハブがいないか気をつける。自分でも分かっているが、やりすぎの域。


マングローブ原生林を見下ろす爽快道路
マングローブ原生林を見下ろす爽快道路

原生林を眺める。いい景色だな、と心にじんわりくる。これが海のそばにあったらもっときれいだろうな、と身勝手なことを思う。蛇行する川に沿うマングローブ。カヌーはしない。まだ営業時間じゃないし、と言い訳を自分に聞かせつつ、実はカヌー操縦はたぶん苦手分野。物理のセンスがまるでない。


日本最大級のマングローブ原生林
日本最大級のマングローブ原生林

ただ、カヌーに乗らないにしても、なんかもったいないなと思う。駐車スペースの手前にあって、見て見ぬふりをした「マングローブ遊歩道」の看板を、仕方なく記憶から引きずり出す。高台にある国道から、この原生林へとつながる階段があるのだ。「仕方なく」というのは、やはりハブに由来する。毒吸引器を昨夜ドラッグストアで買い忘れ、周囲には誰1人としていない。


ま、行けるところまで行こうかな。ハブ、というかいろいろなヘビがうようよ棲息していそうな森へと階段を下りる。やっぱり、ずっと下を見ながら。「ひゃあ!」と声を出す前に、心臓に強烈に圧がかかる感覚になった。ヘビ! ハブ!? 


ハブと見間違えた人騒がせなヒカゲヘゴ
ハブと見間違えた人騒がせなヒカゲヘゴ

よく見たら違った。樹木である。名前はヒカゲヘゴ。日本最大のシダ植物らしいが、その模様は巨大ヘビと間違えても不思議ではなく、なんて人騒がせな木なんだと心で毒づく。だめだめ、そういう場所ではない。落ち着きながらマイナスイオンの源へ近づく。ふもとまで10分くらいかかるかなと思ったら、5分もかからずに着いた。


原生林へと階段を下りていく
原生林へと階段を下りていく

マングローブ! こんなに密集しているのを間近で見るのは初めてで、けっこう興奮する。思っていたより低層だ。私がハブと勘違いしてビビらないように気を遣ってくれているようで、湿地には生き物が見えない。何かにガサゴソしていてほしかった、とまた身勝手なことを思う。もちろん立ち入り厳禁だが、もしこの湿地に足を踏み入れたりしたらどうなるのだろう。底なし沼に底はあるのかないのか。


密集するマングローブ
密集するマングローブ

スカウトの横に座って佐々木朗希投手の球速を1球1球確認していたときも、この原生林ではいろいろな生き物が息づいていたんだな…。余計なことをまた考えてしまう。この上ない大自然に包まれながら、それでも日常打破できないのか、職業人間。自分に呆れながら国道への階段を上っていくことで、不思議とハブの恐怖が脳裏から去っていたので、まぁ結果オーライではある。【金子真仁】