気温も上昇し夏の季語でもあるシロギスの出番がやってきた。東京湾での“釣り入門編”の代表格だったが、このところのアジブームでやや押され気味。そこでキス釣りの魅力を伝えつつ、どうすりゃ釣れるのかを特集しちゃう。ちょっとしたコツが必要なのだが、今シーズンは20センチ超の大型も釣れるから、楽しみは広がりそうですよ。

改修中の横浜マリンタワーを見上げながら出船する。山下橋「広島屋」に乗っている。操舵(そうだ)は石井晃船長。船着き場の階段から奥さまと娘夫婦が大きく手を振って送り出してくれる。毎回の恒例行事だ。こちらからも手を振り返すと、振る手の幅はさらに大きくなる。「よし、これから釣るぞ!」という気持ちにさせてくれる。

横浜ベイブリッジをくぐってキスの釣り場、木更津沖まで走る。この3年ほど、キス釣りは低調だった。船釣りでは初心者の対象魚だったが、今ではかなりの高度なテクニックを使わないと数を伸ばせない。

キスは底をはうように回遊している。底さえとらえることができれば釣り経験の浅さを補ってくれた。ところが、仕掛けを着底させても反応はやや薄い。

「海のおじさん」こと海洋環境専門家の木村尚(たかし)さんに同行してもらった。さあ、木村さん、どうするのか?

横浜から木更津まで、船だと意外に近い。JR横須賀線から内房線に接続するルートでは2時間だが、船ならナギであれば30分前後で到着する。しかも東京湾の大パノラマを眺めながらの移動だ。釣りの準備をして朝ご飯を食べていたら着いてしまう。

木更津沖のポイントは水深15~20メートル。広島屋では胴突き仕掛けを推奨している。2本バリでも1本でもいい。木村さん、2本バリ仕掛けを投入して、置きザオにしようと思ったらプルルンときた。いきなり19センチのナイスサイズだ。「朝飯を食べさせない気か、ここのキスは」と文句のようで、顔はほころんでいる。

しかし、次々にヒットするわけではない。第1投は、出合い頭だったようで、しばらくサオ先は沈黙。タコボウズ記者(寺沢です)もペースとしては15分に1匹。1時間に4匹。きっと何かが違う。

木村さん、何かに思い当たったようだ。サオを持つ手を振りあげる。すー、とまたさげて、しばらくすると、またサオを振りあげた。数回、繰り返しているとサオ先が震えた。あっ、キスだ。釣れた。

木村さん この前、キスの名人がいて、こんな動作をしていたなぁと思って。万策尽きたので、マネしてみたら釣れました。なんでキス、掛かるんでしょうか。

木村さんも分からないようで、それでも、この動作でコンスタントに釣りあげていった。タコボウズは船の揺れで誘う置きザオにこだわったが数は伸びなかった。タコボウズは13匹、木村さんは25匹。ダブルスコアだった。

このサオを振りあげる動作にもしかしたらキスを引き付ける秘密があるのかもしれない。【寺沢卓】

<サオ上げるとなぜ?>

▼状態 胴突き仕掛けとは、ハリスの下に15号のオモリを付けて縦方向に真っすぐ張る。下バリの枝スはオモリまでのハリス(捨て糸という)よりも長い。つまり、オモリが着底しているときに下バリは潮の流れもあるだろうから底付近を浮遊しているか、底に落ちている可能性が高い。

▼変化 サオを振りあげることで、オモリが浮く。下バリはオモリを追いかけるように底から浮いていく。木村さんは7秒間隔でサオを振りあげていたので、下バリに刺さっているアオイソメは7秒間隔で上下動を繰り返す。これがキスへの誘いになると思われる。

▼証言 木村さんは「サオをあげると、何もないときはスーと上がる。キスがヒットするときは、落とし込みには反応せずに、振りあげた直後に追いかけてくるようにキュンと食らいついてくる印象だね」と話していた。

▼仮説 エサのアオイソメに動きを与え、しかもサオを振りあげることで興味もって食いついてくるキスを口で引っ掛けられるため、偶然の空アワセではなさそうだ。キスにアオイソメの存在を知らせ、追いかけてくるキスをガッチリと釣り上げる。理にかなったキスの釣法といえそうだ。