医師で作家の鎌田實さん(67)が、日常生活のちょっとした工夫で健康になり、10歳若返るヒントを教えてくれます。

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 年齢とともにもの忘れが多くなるが、ときには忘れたほうがいいこともある。嫌な経験をして、感情がむしゃくしゃするようなときは、早く忘れたほうがいいのだ。

 何を記憶し、何を忘れるか。ぼくたちの脳は、睡眠の最中に仕分け作業をしている。

 記憶は、脳の海馬という部位にいったんためられる。その後、レム睡眠という浅い睡眠のときに大脳皮質に移しかえられ、記憶として定着する。認知症の人はこの海馬の機能が低下するため、昔のことはよく覚えているのに、最近のことから忘れていく。

 レム睡眠のとき、記憶の固着とともに、感情の整理もしている。その日、おもしろくないことがあり、怒り心頭に達していても、翌朝になると「まあ、いいか」と思えることがあるのは感情が整理されたからだ。これは仕事のうえでも、人間関係のうえでも大事なことだと思う。

 不愉快なことがあっても、すぐに反撃しないで、一晩おいておく。最悪なのは、売り言葉に買い言葉。その場でカッとなってしまうと、事態はこじれてしまう。それよりも、脳の中で感情が整理されるのを待つのである。待てば、怒りの目では見えなかった景色が見えてくることもある。

 一晩寝て、まあいいかと思えれば、それでいい。それでも怒りが収まらなければ、冷静に、紳士的に、落ち着いて自分の意見を述べ、議論する。そうすることで仕事の質は高まり、職場の人間関係もよくなるのではないか。

 「果報は寝て待て」というが、一晩寝て待つメリットは大きい。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日、東京生まれ。東京医科歯科大医学部卒業後、長野県茅野市にある諏訪中央病院の医師になる(現在は名誉院長)。チェルノブイリ原発事故の患者支援、イラク難民支援を続け、東日本大震災後の被災地支援にも力を入れている。著書「がんばらない」など多数。