医師で作家の鎌田實さん(67)が、日常生活のちょっとした工夫で健康になり、10歳若返るヒントを教えてくれます。

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 心と体はつながっている。体がやわらかいと、考え方もやわらかくなる。やわらかく生きることが大事だ。

 清原和博選手は、長渕剛の「とんぼ」の曲にのって、パワー全開で相手投手を睨(ね)めつけながらバッターボックスに入っていった。筋骨隆々の体が、相手を威圧する。速球勝負の一流ピッチャーには、彼は強かった。

 しかし、フォークボール全盛時代である。あんなに筋肉を隆々につけてしまえば、やわらかなバットコントロールができなくなる。

 ぼくを清原選手のメンタルトレーナーにさせてくれたら、あんなに筋肉をつけさせず、もっとやわらかな体と心をつくってあげたのに。

 イチロー選手と比べてみるとよくわかる。イチロー選手のルーティンは、バッターボックスに入る前から打つ瞬間まで脱力系である。打つ間際まで脱力している。ずっと力を入れているよりも、力を入れたり抜いたりというバランスのなかでヒットやホームランは生まれてくるのだ。

 清原選手はいつもだれにも相談できず、強い男を演じていなければならなかったのだと思う。孤独だったと思う。もっと弱さを表面に出してもよかったのだと思う。そうすれば、薬物依存に陥らずにすんだかもしれない。

 イチロー選手の心はやわらかい。4000安打を達成したとき、彼はクールに、4000安打の裏側に8000本の失敗があったと語った。

 なるほどなと思った。成功した4000本と、失敗した8000回を同列に捉えている。成功もあれば失敗もあるという平常心がある。やわらかな心を持っている人は強い。

 ◆鎌田實(かまた・みのる)1948年(昭23)6月28日、東京生まれ。東京医科歯科大医学部卒業後、長野県茅野市にある諏訪中央病院の医師になる(現在は名誉院長)。チェルノブイリ原発事故の患者支援、イラク難民支援を続け、東日本大震災後の被災地支援にも力を入れている。著書「がんばらない」など多数。