肺がん治療30年のスペシャリスト、国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎先生(57)が、最新の肺がん治療を教えてくれます。

【EGFR阻害薬が効かなくなったらどうするの?】

 EGFR遺伝子変異がある患者さんに、イレッサ、タルセバ、ジオトリフのいずれかのEGFR阻害薬を1次治療として使用した場合、60~70%程度の患者さんで腫瘍の大きさが劇的に縮小します。しかし、約半数の患者さんは1年以内に、ほとんどの患者さんが2~3年以内に効果がなくなるのが現状です。

 このようにEGFR阻害薬が効かなくなった患者さんのがん細胞を調べると、約半数の患者さんでT790Mというこれまでとは別のEGFR遺伝子変異が出現していることが報告されています。このT790M変異が出現することにより、イレッサなどが効かなくなると考えられています。

 このT790Mを持っている患者さんにも効果がある新しいEGFR阻害薬がタグリッソです。タグリッソはイレッサなどが効かなくなったT790M陽性の患者さんの60~70%に劇的な腫瘍縮小効果を発揮し、平均すると1年程度効果が持続します。

 イレッサなどが効かなくなった場合には、再度、肺がんの組織を採取してT790Mの検査をすることが必要になります。患者さんによっては再度生検を行うことが難しい場合があります。このような場合には、血液からでもT790Mの検査ができます。

 T790Mが検出されなかった場合やタグリッソも効かなくなった場合は、体力や合併症に問題がなければ抗がん剤治療を受けることをお勧めします。EGFR阻害薬だけの治療では必ずしも十分な延命効果を得ることができません。EGFR遺伝子変異のある患者さんには、免疫チェックポイント阻害薬は少し効きにくい傾向があります。免疫チェックポイント阻害薬は、抗がん剤治療の次に検討するのが良いと思います。

 ◆大江裕一郎(おおえ・ゆういちろう)1959年(昭34)12月28日生まれ、東京都出身。57歳。東京慈恵会医科大学卒。89年から国立がんセンター病院に勤務。2014年、国立がん研究センター中央病院副院長・呼吸器内科長に就任。柔道6段。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本体育協会公認スポーツドクターでもある。