災害による過労やストレス、衛生状態の不良に伴い、口内フローラ(細菌叢=そう)のバランスが崩れると、虫歯や歯周病が悪化しやすくなります。全身的な基礎疾患をお持ちの方であれば、なおさら危険な状態です。非常用備品にはご家族の持病や年齢を考慮したアイテムを選択するようにしましょう。

 まず気を付けなければならないのが、糖尿病の患者さんです。予備軍も含めると、約2000万人が罹患(りかん)している可能性が高いとされる糖尿病ですが、近年の研究で歯周病と糖尿病が相互に影響し合っていることが、明らかになっています。ストレスがかかる避難所での生活が血糖値の上昇を招くと、歯周組織がダメージを受けやすいので、殺菌効果の高い洗口液や液体歯磨きの力を借りましょう。

 腎不全で人工透析を受けている方は、口が渇きやすい傾向にあります。水が不足している環境ではうがいもできなくなるため、保湿効果のあるマウスリンスやジェルを用意しておくと役立ちます。免疫力が低下しているがん患者さんの場合は、感染予防にマスク装着が必須です。抗菌作用のあるウエットシートなどを使用し、手指消毒も徹底してください。

 脳血管障害等で嚥下(えんげ)機能が低下した患者さんの場合、最も懸念されるのが食事の確保です。健常者向けのパンやおにぎりでは、のみ込みが困難ですから、簡易的に調理ができるおかゆなどがあると安心です。歯と頬の間や舌の下といった場所にも食物が残留しやすいので、ガーゼやスポンジ等の口腔(こうくう)ケア用品もお忘れなく。

 水が不足している場合、天然のシャワーである唾液の力を利用して口の中を潤わせるだけでも、効果があります。有事に備えて、唾液腺マッサージ(顎=がく=下腺を押す方法が一番簡単です)や、舌回し体操をマスターしておくのも良いでしょう。

 ◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)歯学博士。厚労省歯科医師臨床研修指導医。分かりやすい解説はテレビ、ラジオでもおなじみ。昨年出版した「歯科医が考案・毒出しうがい」(アスコム)は反響を呼び、ベストセラーとなった。近著に「『噛む力』が病気の9割を遠ざける」(宝島社)。女性医師のボランティア活動団体「En女医会」会長。