トップアスリートやシンガー・ソングライターらが相次いで闘病を公表した「白血病」-。血液のがんであるこの病気の発生率は、年々上昇しているといいます。その病因は不明のケースが多く、検査、治療も長期間に及びます。米国の血液内科マニュアルを独学で修得した、自称「さすらいの血液内科医」、東京品川病院血液内科副部長・若杉恵介氏が「白血病を知ろう!」と題して、この病気をわかりやすく解説します。

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主に入院を要する、急性白血病の患者さんに関してお話しします。

治療前は、以前説明したとおり病院は「ドタバタ」していますので、見舞客を許可する余裕のないことをお含みください。また、悪性疾患ですから病状の説明は、親族の方に限らせていただきます。

時折「絶対に治るんですね?」と質問を受けますが、白血病の性質と本人の状態によることが多く、「絶対治します」とはお答えできず、「最善を尽くします」としか言えません。

そして治療初期(最初の1週間)は、抗がん剤と呼ばれる化学療法剤が高濃度で体内にあり、吐き気や不整脈、そして腫瘍が壊れる時に出る物質による「腫瘍崩壊症候群」を予防するために、安静と点滴が必要です。

治療中盤(2週から3週目)は、特に初回治療は正常な白血球が減少していることが多く、易感染性と呼ばれる「風邪」をひきやすい状態です。小さなお子さん、体調の悪い方はもちろん、親族とはいえ見舞いは最小限度にお願いしています。輸血も高頻度です。注意していても、敗血症や肺炎などの合併症が起きる場合もあります。多量の抗菌薬が必要な場合もあります。

終盤(4週目)は回復期に入ればいいのですが、中盤であった感染症などで体調が悪いかもしれません。またこのあたりで一気に脱毛します。本人が元気だったら見舞いは不可能ではないですが、避けるべきです。

つまり、急性白血病に関しては、あまり見舞いのタイミングはありません。正直、医療側からすると見舞客=感染源と認識しています。冬場のインフルエンザ流行期もかなり神経質になっています。医療の専門組織であるとはいっても、インフルエンザを完全に感染制御できる病院は皆無です。

患者さんから「すしが食べたい」「温泉に行きたい」と要望されますが、なかなか許可できません。若い患者に「それなら、グラタンコロッケバーガー!」と言われ、ハンバーガーショップに走って買いに行ったことも、以前にありました。でも、なぜか、病棟看護師の分まで買わされてしまいましたが…(苦笑い)。

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白血病の治療や診断は、進歩しました。ただ、圧倒的に病気の方が医療よりも強いです。そのスキをついて、何とか「引き分け以上」に持っていく-。医療とは、そういうものではないか、とも感じています。(おわり)

◆若杉恵介(わかすぎ・けいすけ)1971年(昭46)東京都生まれ。96年、東京医科大学医学部卒。病理診断学を研さん後、臨床医として同愛記念病院勤務。米国の血液内科マニュアルに準拠して白血病治療をほぼ独学で学ぶ。多摩北部医療センターなどを経て、18年から現職の東京品川病院血液内科副部長。自称「さすらいの血液内科医」。趣味は喫茶店巡りと読書。特技はデジタル機器収集。