前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

厚労省の調査によると、2018年の男性の平均寿命は81・25歳、女性は87・32歳。今や、日本は世界有数の長寿国となっています。それにともなって、前立腺の病気をもつ患者さんが増えているのです。

前立腺の病気のなかで最も多いのが「前立腺肥大症」。40歳代から前立腺の肥大が始まり、55歳以上の男性の5人に1人がかかっているといわれます。また「前立腺がん」の発症率も上がっていて、近年は男性がなるがんのうち第1位の発症数といわれています。前立腺がんは男性ホルモンの影響で進行しますが、多くは進行がゆっくりで、高齢になるにつれて増えるため、高齢化が進む日本では、今後ますます増えると予想されているのです。

では、前立腺の場所と構造を確認しましょう。言うまでもなく、前立腺は男性生殖器の一部であり、男性特有の臓器です。陰茎(ペニス)や陰嚢(いんのう)の上側、恥骨の内側にあります。少し上にある膀胱(ぼうこう)の下部出口に接し、膀胱から出る尿道を3センチほど包み込む、「栗の実」状の器官です。直径は約4センチ、厚さは約2・5センチで、重さは15~20グラムほどです。

ほかの臓器との関係で見ると、尿をためる膀胱との間に、前立腺の上部にはりつく形で精嚢があり、ここには陰嚢内の精巣から精管がつながっています。精巣で作られた精子は、精管を経て精嚢へ運ばれ、射精までの間蓄えられます。

前立腺の後ろには「便の通り道」である直腸があり、肛門から指を入れると、その壁越しに前立腺を触知することができます。泌尿器科では、医師が肛門から指を入れることで前立腺に触れて形や硬さ、痛みなどを調べることができます。つまり、前立腺の病気を診断する手掛かりの1つとなるわけです。

前立腺の下部は骨盤底部にある筋肉群(尿道括約筋や肛門挙筋など)に触れており、骨盤のなかで「ハンモック」のように内臓を支え、また尿や便の排せつの調節に重要な役割を果たしています。前立腺は、このように排尿や生殖に関わる臓器や筋肉と、密接な関係にあるのです。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。