前立腺の病気といえば、ことに中高年男性には悩みの種。それでいて前立腺の構造や働き、病気の原因、治療など知られていないことも多いのが実情です。ここでは、日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟氏(59)が、前立腺肥大症、前立腺がん、ED(勃起障害)などについて、わかりやすく説明します。

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ED(勃起障がい)になるリスクが高いのは、やはり前立腺がんの手術を行った場合でしょう。前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術後のED罹患(りかん)率は、6~68%と推計されており、術後の勃起機能に全く問題がない患者の割合は、20~25%という研究結果もあります。

前立腺の全摘は、がんをしっかり除去するためにその外側にある神経や血管もある程度切除するため、勃起はしづらくなります。前立腺がないから、当然射精もありません。最近は「神経温存手術」という、前立腺の「両側」にあるペニスに向かう神経血管束を切らずに温存する手術が、ロボット支援手術による「拡大視野」の導入で、より正確にできるようになりました。両方の神経を温存すれば、手術してもEDにならない可能性が十分あります。

前立腺両側の神経血管束を残せて、50~60歳代の年齢なら、術後も挿入できるくらい硬くなることも可能です。しかし、がんの場所や大きさから片側しか温存できないとき、やはり「以前より弱くなった」と言う人が正直多いです。

ただ、神経温存法も絶対を保証するものではありません。「EDは、絶対いや!」という人は、放射線治療のほうがいいでしょう。前立腺に放射線を照射することで、がん細胞を死滅させ、増殖を抑える方法が放射線治療ですが、これも4、5年たつと、放射線が累積される影響で血流障がいが起こり、EDになりやすい、という論文もあります。

がんに対する効果は手術でも、放射線でも、同等ですが、再発のリスクが高い患者さんには手術を勧めることが比較的多いです。なぜかというと、術後に仮に再発しても放射線を照射することでもう1回完治のチャンスがありますが、最初に放射線を選択すると、がんの癒着が強くて、そのあと手術ができないためです。

また、前立腺肥大症の手術の場合は、前立腺の外側の神経や血管に影響はなく前立腺の内側をくりぬくため、EDにはなりません。うっとうしいその症状から解放され、むしろすっきりして性欲が高まる、という論文もあります。しかし、射精障がい(絶頂感は得られるが、射精しない)は起こります。「逆行性射精」といって、膀胱(ぼうこう)の方へ精液が出たり、また前立腺をくりぬくために精液自体が減って、精液が出なくなる可能性があります。

◆高橋悟(たかはし・さとる)1961年(昭36)1月26日生まれ。日本大学医学部泌尿器科学系主任教授。85年群馬大学医学部卒。虎の門病院、都立駒込病院などを経て05年(平17)から現職。東大医学部泌尿器科助教授時代の03年、天皇(現上皇)陛下の前立腺がん手術を担当する医療チームの一員となる。趣味は釣り(千葉・飯岡沖の70センチ、3キロ超のヒラメが釣果自慢)と登山、仏像鑑賞。主な著書に「ウルトラ図解 前立腺の病気」(法研)「よくわかる前立腺の病気」(岩波アクティブ新書)「あきらめないで! 尿失禁はこうして治す」(こう書房)など。