世界的な感染拡大が続く新型コロナウイルス。未曽有のパンデミックに緊急事態宣言も発令され、社会のあり方が大きく変化している。他者とのコミュニケーションのあり方も大きく変化し、終息も見通せない重圧が続く。メンタルヘルスへの影響も懸念される中、「コロナうつ」との言葉も生まれた。長期化する「新たな生活様式」の中での「心」の問題とは。市ヶ谷ひもろぎクリニックの渡部芳徳理事長に聞いた。

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うつ病の診断補助ツールは「CT検査」「血液検査」「光トポグラフィー検査」「脳波検査」などがあります。今回は最後の脳波検査を紹介します。

精神科で脳波検査を行う目的は、てんかんの人をしっかり発見するためです。てんかんの人は気分に波を持っている人が多く、うつ病と間違えられることがあります。うつ病と診断されて治療を行っていても良くなりません。このてんかんについては、「子供の病気」「泡をふいて倒れる」といったイメージで思っている人が多いと思います。しかし、実際はそれだけではありません。てんかんの特徴的な症状は、複雑部分発作と呼ばれる症状。複雑部分発作は、見た目は普通だったり、ときにちょっとおかしな行動をしたりしているな、と周囲に思われる程度でも、実は意識を失って発作を起こしているというものです。

私の患者さんで30代のE男さんは、気分に波があったので抗うつ薬を処方しました。しかし、症状は改善しません。ただ、問診で気になることがありました。E男さんは「階段を下りるときに階段の模様がバーッと見えなくなることがあって、何度も階段で転倒して落ちています」と話したことです。そこで、すぐに脳波検査を行ったところ、てんかんを示す脳波異常がはっきりと表れました。抗うつ薬を抗てんかん薬に切り替えると、気分変動はすっかり良くなりました。E男さんは実は意識を失って発作を起こしていたのです。

このほかにも、「普通に話しているのに記憶がない」、「運動後に息を整えている間の記憶がない」などのエピソードのある場合は、てんかんによる発作が疑われますので、すぐに脳波検査を行います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)