一般的に“男性更年期障害”と呼ばれている「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」の症状が出ている人は、男性ホルモン(テストステロン)が低下しています。この場合は前立腺がんに気を付けるべきです。

前立腺がんの年間罹患(りかん)者数は約9万1000人で、死亡者数は約1万3000人で、男性では最も多いがん。それだけにしっかりとした対応が必要です。

もちろん、LOH症候群が前立腺がんと直接関係があるわけではありません。ただ、テストステロンの低い男性は前立腺がんを発症した場合、悪性度の高いがんであることが多い。

実際、私たちが行った研究では、テストステロンの高い人の方が悪性度の低い前立腺がんが多く、低い人では転移を起こすような悪性度の高い前立腺がんが多かったのです。

テストステロンを高く維持できている人は、前立腺がんができたとしてもあまり悪いがんではありません。悪性度が低い前立腺がんの場合、PSA(前立腺特異抗原)検査とかMRI(磁気共鳴断層撮影)検査でチェックしながら、PSA値が上がったり、画像で進行がみられたりした時点でロボット手術や放射線などの治療を行うことができます。

それで、がんが5年以上まったく進行しない、という方も私は主治医として経験しています。

「がんは早期発見・早期治療」と言いますが、前立腺がんの場合はすぐに手術をしないといけない、ということはありません。前立腺がんの悪性度をしっかり確認しましょう。それは次回に。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。