前立腺がんの罹患(りかん)者数は年間9万人を超え、男性のがんの罹患者数では最も多い。その前立腺がんも遺伝的要因が関わっており、約25%に家族歴のあることがわかっています。

遺伝的要因のわかっている人は30~40代でPSA検査を受け、早期発見を心がけましょう。それ以外の人は、できる限りリスク因子を知って予防すべきです。

前立腺がんは、「喫煙」「運動不足」「肥満」が3大リスク因子。喫煙は、がんに限らず全ての疾患のリスク因子と言って過言ではありません。これは禁煙あるのみです。

運動不足は、コロナ禍の今、多くの方が悩み、苦しんでいるところ。ウオーキングをすると感染するのでは…。ウオーキングで感染することは考えにくいことです。

私がウオーキングを勧めるのは、筋肉は下半身の方が多いので、効率の良いのがウオーキングだから。実は、男性ホルモン(テストステロン)は筋肉の細胞でも作られています。テストステロンが多いと、たとえ前立腺がんを発症したとしても、悪性度が低く抑えられます。運動はがん予防、悪性度予防の両面に効果を発揮するのです。

もちろん、だらだらウオーキングではなく、5分歩いたら次の5分は速歩にすると、より運動の効果は上がります。前立腺がんのリスクを抑えるのみならず、ハーバード大学の研究では「週に3時間の運動は前立腺がんの再発リスクと死亡リスクを61%も減少させた」と報告されています。

そして、「肥満」。肥満度を表すBMI(体重キロ÷身長mの2乗)が30以上になると、前立腺がん死のリスクは約2倍にアップ。今日の日本人の肥満率は、約30%にも膨れ上がってきています。コロナ禍の今はさらにアップしていると思われます。

食べる量を減らして運動量をアップさせ、肥満を解消することで、減少していたテストステロンもアップします。今、この時から、実行しましょう。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)

◆井手久満(いで・ひさみつ) 1991年宮崎大学医学部卒業。国立がんセンター、UCLAハワードヒューズ研究所、帝京大学等を経て、20年4月から独協医科大学埼玉医療センター教授、低侵襲治療センター長。ロボット支援手術プロクター認定医、日本メンズヘルス医学会理事、日本抗加齢学会理事等。前立腺がん予防や男性ホルモンが研究テーマ。今年9月18~19日、日本メンズヘルス医学会を会長として開催する。

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