【口と歯が健康寿命を延ばす】

数年前に愛犬を立て続けに見送ったのですが、食事が何より楽しみだったはずの2匹が亡くなる前は一切食事を受け付けなくなりました。

そろそろお別れの時が近づいてきたのだな、と実感せざるを得ない姿は今でも忘れることができません。動物にとって「食べること」は「生きること」。これは私たち人間も同じです。

小さな子どももお年寄りも、病気にかかった際に自分の口で食事がとれるかどうかは病状の深刻さを診る物差しになります。食べるという行為の入り口になるのは「口」という臓器であり、消化器官としての役割を担うために「歯」が必要であるにもかかわらず、長いこと健康維持のための要素として捉えられてきませんでした。

人間ドックを受けたり、ウオーキングを習慣化したり、塩分摂取に気をつけるという人はいても、定期的に歯石を取りにいったり、デンタルフロスの使い方をマスターするという人は少なかったはずです。

ところが近年、歯や口が健康であることが身体全体の健康を左右し、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を延ばす意味を持つことがさまざまな研究で明らかになってきました。長生きが当たり前という時代になったのですから、好きなものをおいしく食べて、行きたいところへ自分の足で歩いて行ける、そしてできる限り身の回りのことは自力でできる状態を長く続けたいと考えるのは自然なことです。

そのために取り組んでいただきたいのが、口の中を衛生的に保つことと、かむ力を高めること。皆さんが毎日やっている歯みがきの効率を上げることは、その第1歩です。

◆照山裕子(てるやま・ゆうこ)日本大学歯学部卒。同大学大学院歯学研究科を経て東京医科歯科大学歯学部付属病院勤務。テレビやラジオでのわかりやすい解説が評判となり、雑誌のコラムや日刊スポーツでの連載を担当。文筆家としての活動も積極的に行う。現在は東京医科歯科大学非常勤講師、日本アンチエイジング歯科学会理事、複数の歯科クリニックで診療。