乳がんの薬は大きくわけて「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」の3種類。乳がんのタイプによって使う薬が違ってきます。

ホルモン薬は「女性ホルモン受容体陽性」タイプに効きます。女性ホルモンをエサにして増えるタイプの乳がん細胞で、乳がんの7割程度がこのタイプです。閉経前の患者さんに使う場合、女性ホルモンががん細胞に取り込まれるところをブロックするホルモン薬(タモキシフェン)と、卵巣の働きを抑えて女性ホルモンを作らなくする薬(LHRH アナログ)があります。閉経後の患者さんの場合は、脂肪細胞で女性ホルモンがつくられているので、そこで女性ホルモンに変換する酵素を抑えるホルモン薬(アロマターゼ阻害薬)を使います。がん細胞の栄養となる女性ホルモンを抑える治療です。

次に、抗がん薬。細胞分裂を邪魔することで増殖するのを抑えたり死滅させたりする薬です。女性ホルモン受容体もHER2たんぱく(がん細胞に増殖指令を出すたんぱく)も持たない「トリプルネガティブ」タイプの乳がんでは、抗がん薬での治療が主となります。細胞分裂が多い細胞で効果が出やすいので、女性ホルモン受容体陽性乳がんの中でも増殖の盛んな細胞には抗がん薬を併用することもあります。HER2たんぱくも持っていないタイプです。「HER2陽性」タイプの乳がんにも、抗がん薬と分子標的薬を一緒に使います。

そして、3つ目の分子標的薬。細胞のがん化、がん細胞の増殖に関与するたんぱくを狙ってピンポイントで攻撃する薬です。抗がん薬のところで説明したようにHER2陽性タイプには、抗がん薬と合わせて使うことでがんの抑制効果が証明されています。

これらの薬以外に、免疫細胞を活性化する「免疫チェックポイント阻害薬」も保険適用に--。トリプルネガティブタイプに抗がん薬と一緒に使います。(取材=医学ジャーナリスト・松井宏夫)