たばこに含まれるニコチンやタールをはじめとする有害物質を、喫煙している本人でなくとも吸わされてしまうリスク、これが受動喫煙の問題点です。ニコチンが虫歯の原因菌(ミュータンス菌)に作用すると菌が歯に付着しやすくなることや、菌自体の数を増加させるために歯を溶かす酸性物質が増えることなど、これまでにさまざまな仕組みが解明されてきました。

たばこの煙には免疫を抑制する性質があるとされ、気道が炎症を起こして口呼吸や口腔(こうくう)乾燥症を招き、唾液が持つ自浄作用(洗い流す力)や緩衝作用(酸性を中和する力)を低下させることも要因のひとつです。こうしたメカニズムから、受動喫煙の影響を受けた子どもは虫歯を発症するリスクが高いと考えられています。

たとえ距離が離れたベランダや換気扇の下で喫煙したとしても、喫煙者の呼気(吐き出す息)には常に有害成分が含まれています。呼気だけでなく、髪の毛や着ている服に付着したものが屋内に充満する「三次喫煙」にも注意が必要です。副流煙の出ない加熱式タバコであっても、この影響は全く変わりません。小児期の疾患として、SIDS(乳幼児突然死症候群)やぜんそくは受動喫煙との因果関係が確実とされていますが、呼吸機能の低下や中耳炎、せきやたん、息切れなどにも関与している可能性が高いことがわかってきました。

地域の健康を守る臨床家の立場としては、保護者や周りで生活する方々に1つずつ理解していただくほかありません。妊婦さん本人の喫煙はいわずもがな、周囲の人の喫煙によっても低体重児出産や早産のリスクは上昇します。生まれる前から環境を整えておくことが、健やかな子どもを育てる最善策といえます。