先日、大学時代の同級生と小さな同窓会を開いた。隣に座った友人の顔を見て、学生時代に相手が左腕を骨折してギプスをはめていたことをふと思い出した。あちこちに落書きされたギプスを見て、落書きしていいものなんだと認識した記憶もよみがえった。

しかし当人は「大恥をかいたんやで」と怒り顔。あともう少しでギプスとお別れというときにエッチな文言を落書きされ、左腕を隠しながら病院に行ったら担当医から「もう1カ月、このままで行きましょう」とまさかの宣告。「かっこ悪くて、ギプスに色塗ってもらおうと思ったわ」と苦笑いした友人の顔を見て、頭をよぎったのは阪神藤浪晋太郎投手の顔だった。

大阪桐蔭3年の選抜大会。開幕日の1回戦・花巻東(岩手)戦で、主砲の田端良基内野手が死球を受けて右手首を骨折した。2回戦以降は試合に出られず、決勝もギプスをはめたまま。チームメートはそこにメッセージを書き込み、藤浪は「夏は頼りにしてるで」と書いた。だが「こんなことしてええのかな」とすぐさま後悔した。

夢見た大舞台を棒に振った田端の無念が詰まったギプスに、激励とはいえ、落書きした。とんでもなく無神経な行為だと、藤浪は自分のやったことを恥じていた。どういう行為が人の気持ちを傷つけるのか、ちゃんと分かっている人だと思った。

今の藤浪は、復活を望まれて久しい。みやざきフェニックス・リーグでの中継ぎ登板、秋季安芸キャンプでの元中日山本昌臨時コーチによる指導など、さまざまな方法で道を探る。周囲の心の動きを受け止める鋭敏さは、必ず人としての強さになるはずだ。復活の笑顔を待ちたい。【遊軍=堀まどか】