背広を脱ぐ前に、ロッテのタイロン・ゲレーロ投手(31)はスマートフォンで動画を撮っていた。ソフトバンク戦を翌日に控えた4月11日。長崎ビッグNスタジアムの後方には、夜景展望で有名な稲佐山がそびえる。ロッテ入団が決まった昨冬、助っ人右腕は野球への意気込みとともに「美しい文化に触れられることを楽しみにしています」と話していた。
コロナ禍になり、3年目のシーズンが進む。ロッテが主催する1軍公式戦の地方球場開催は今季はないものの、NPB全体としては少しずつ戻りつつある。移動が少々大変とはいえ、いつもと違う環境でのプロ野球は、いろいろなメリットがあると感じる。
ファンにとっても。ZOZOマリンの徒歩圏内で育った男性(23)は今、進学先の長崎に暮らす。「ものすごく現地に応援に行きたくて仕方がない…正直、寂しさばかりです」。愛するチームが長崎にやって来る。小学生のような気分で心待ちにした。
開放的な屋外球場で、イニングが進むたびに夜景が夜景になっていく。男性は、隣席に座っていた初対面の夫婦と話した。「せっかくだから来てみたんです」。せっかくだから-。そんな言葉が印象に残ったという。「地域のお祭り、イベントに行くような感覚に近いのかなと感じました」。
自分が見てきたプロ野球とは、ちょっと違う空間。
「千葉では、マリンに行こうと思えばいつでも行けますし、結局、野球好きの人が行く感じだったと思います。その雰囲気とは違って。プロ野球への関心の向上につながるだろうなと感じました。子どものファンも多かったですし」
確かに少年少女も多く詰めかけていた。私は2階席で取材していたが、地元の高校球児が2人、試合途中にやって来て、それぞれ父親らしき男性と一緒に観戦していた。外国人選手の強烈なスイングにはどよめきが起き、ソフトバンク松田の大きなリアクションによるリクエストアピールには、マスクの下から多くの笑いが聞こえた。
普段プロ野球が行われている福岡へも、車で2時間ほど。長崎での新鮮な反応の数々に「プロ野球の価値とは」をあらためて気付かされた。こんな機会が、全国各地でますます増えてくれば、と個人的には思う。
私自身も、学びの多い長崎だった。急坂と階段の街。ナイター当日の昼間に、せっかくだからと長崎駅を見下ろす立山へと登った。急斜面に張り付くように広がる住宅地と、そこに張り巡らされる急勾配の階段。ヒィヒィ言う私に、どこかの軒先からおばちゃんが「お疲れさま」と声を掛けてくれた。この階段、毎日上り下りしているんですか? 「足腰は丈夫になるけど、慣れるまでは大変よ」。
登りも下りも、1歩1歩に集中力が必要な街。インフラを整備するのでさえ、きっと大変な街。そっか、77年前にこの街に-。人々は一体、どんな思いで…。平和の灯に照らされてのナイターは、いつもより感慨深かった。【ロッテ担当=金子真仁】




